小島慶子「これからの洗濯は7時間以上? 最新洗濯機から未来の暮らしを考えた」
40年前、私たちの親の時代には【子どもがいる世帯は7割】でした。ところが今は【子どもがいない世帯が6割】。社会は大きく変わっているはず? ……と思いきや、給料は上がらないのに物価は上がり、男女の賃金格差と雇用格差はあいかわらず。暗くならざるをえない状況だけど、どうしたら少しでも豊かな人生を送れるのか、家族や友人たちとどう楽しい時間を持てるのか、小島慶子さんと考えていく連載です。 フランスに移住した元完璧主義者が「やめて人生が豊かになった」と語る生活習慣とは?
【小島慶子 明日の空模様】
一人暮らしをしている東京の賃貸住宅の、備え付けの洗濯機が寿命を迎えました。私が引っ越してくる前から、10年以上も働き続けていた日本のメーカーのドラム式洗濯機。本当にお世話になりました。大家さんが新しいものに入れ替えてくれたのですが、備え付けスペースに入るサイズのものは今ではもう海外メーカーのものしかないとのこと。新たに設置されたわが家の洗濯機は欧州製でした。 「日本製とはかなり使い勝手が違うのですが……」という業者さんの説明を聞いて、衝撃を受けました。もう、洗濯という家事の概念を根本から変えねばならないレベルです。私が古い洗濯機と暮らしているうちに、世界は大きく変わっていました。 まず、環境への負荷を減らすという点で、EUと日本の基準はかなり違うようです。EUの基準ではエネルギーをなるべく使わず、CO2の排出量を極力抑えることが最優先課題。この新しい洗濯機も、最も環境負荷が少なくなるように調節して賢く洗ってくれます。消費する水もわずか20リットル。 しかしその半面、洗濯や乾燥にかかる時間がとてつもなく長くなるのです。どれくらい長いかって、一人暮らしの分量の洗濯物を洗って乾かすのにかかる時間が、7~9時間。聞いた時には耳を疑いました。
「ええっ、そんなに長くかかるんですか?今までの洗濯機はクイックコースなら2時間もあれば洗って乾かしてくれましたよ」 「はい、日本などアジアのメーカーの洗濯機はパワフルで、エネルギーをたくさん使う分速いのです。でもこの設置スペースには、時短よりも省エネ重視の欧州メーカーのものしか収まらないのです」と、申し訳なさそうな業者さん。 「じゃあ、乾燥なしで洗濯だけなら短時間で終わりますか」 「いえ、それでも4~5時間はかかります」 「なんと。そんなに長時間洗ったらむしろ衣服が傷むのでは?!」 「繰り返しになりますが、欧州製は省エネが第一なのです。どうしても急ぐときのためにクイックコースもありますが、これもやはり省エネなので、日本の消費者の感覚からすると洗いやすすぎが不十分で、あまりおすすめできません。さっと水を通す程度のものです」 「な、なるほど……つまり、この洗濯機と暮らすからには、きっちり洗濯するには半日はかかるものだと、認識を切り替えないといけないのですね」 「はい、そうですね……。どうしても環境より速さを優先したいというお客様は、買い替えの際にご自宅の備え付けスペースを改築して、日本のメーカーの洗濯機が入るようにしていらっしゃいます」 もしかしたら、欧州では働く人の帰宅時間が日本よりも早く、家事に時間がかかってもさほど気にならないのかもしれません。夏場も湿度が低い国では、洗濯の回数も日本ほど多くはないのかも。環境負荷の削減を最優先するという社会的合意が形成されている点も、日本との違いかもしれませんね。