ヤクザ、吉原、不倫…毎日300km15年間走りぬいたタクシードライバーが見た「人間」たち…嫌な目にもたくさん遭ったけど続けられたのは母を「不憫」に思う心から
家業の倒産をきっかけに、50歳にして上京し、タクシードライバーとなった内田正治さん。65歳で退職するまでの15年間、毎日300キロを走行してきた悪戦苦闘の日々を綴った書籍『タクシードライバーぐるぐる日記』が評判だ。4月8日から日本版ライドシェアが始まったことで話題のタクシー業界、上野・浅草を走りまくったあの頃の話を聞いた。 【画像】衝撃! タクシーの後部席で男女2人が…
ボンネットに這いつくばる客引き、吉原の人間模様
――50歳からの15年間のタクシードライバー経験をもとに書かれた本が好評ですね。現役時代は、どちらを走っていたのでしょうか? 内田正治(以下同) 上野周辺です。一番走ったのはなんといっても上野・浅草間の浅草通りですね。 ――となると、外国人観光客が多かった? 当時は今ほど多くないですね。それよりも吉原へのお客さんのほうが印象に残りました。吉原は鶯谷、浅草、三ノ輪が最寄り駅で、どの駅からも遠いから、男性も女性もタクシーを使うことが多いんです。「吉原」と行き先を告げるお客さんは、照れくさそうに笑っていたり、逆にぶ然として無言だったり、その人のキャラクターが出ます。 私の入社前はまだバブルで、吉原の客引きが過激だったそうです。お客さんを乗せたタクシーが吉原に到着すると客引きに取り囲まれたり、ボンネットに這いつくばって、奪い去るようにお客さんを自店に誘導することもあったり。ビビっちゃうよね(笑)。 ――それだけ吉原を走っていると、内田さんはやはり吉原の優良店をご存知なんでしょうか? いや、私は全然わからない。「いい店知ってる?」なんて聞かれたら、吉原のど真ん中の交差点で「ここが中央ですよ、選び放題ですからお好きなところへ」ってお伝えしていました。 お店と裏で繋がっているドライバーもいたみたいですけどね。お客さんに指定されてそのお店にたまたまお連れしたら、店員が「トランク開けて」って指示してきて、タクシーで使う掃除道具一式をプレゼントしてくれるようなこともあったようです。 ――粋なサービスですね。吉原で働く女性を乗せることも? そうですね。特に最寄り駅である鶯谷駅は出勤する女性がお使いになることが多いので、吉原との往復で稼げる。それを専門にしているドライバーも多かったですよ。 私は少し離れた浅草橋駅でよく「付け待ち」していました。千葉あたりから出勤されるのか、総武線をお使いの方がいらっしゃるんですね。みんな若くて普通の女性。言われなければわかりません。 気さくにあれこれ話をしてくれた女性もいました。「80歳くらいのおじいちゃんのお客さんがいて、アレは全然できないけどずっとなめてるの」とか「ものすごい下着を持ってきては、着てくれって言うんだ」とか……。「運転手さんの娘が風俗で働いていたらどうですか」なんて聞かれちゃったこともありました。「よく考えてのことなら尊重します」と無難にお答えしましたが。 思えば吉原の女性で、ヘンなお客さんはいませんでしたね。やはり究極のサービス業だから、同じくサービス業の我々を思いやってくださったのかもしれません。