このブルーの正体はヨギボーじゃないですかね?【みうらじゅんの映画チラシ放談】『ブルー きみは大丈夫』『SCRAPPER/スクラッパー』
『SCRAPPER/スクラッパー』
――2枚目のチラシは、サンダンス映画祭で受賞したイギリス映画『SCRAPPER/スクラッパー』です。 みうら このタイトルは、小学校1年生のときから、スクラッパー人生を始めた僕ですからピン!ときましたね。スクラップ帳に切り抜いた記事や写真を貼っている人の話でしょう。違いますか? ――それはどうでしょう(笑)? みうら いや、僕の場合、もうそのスクラップ帳の数が800冊を超えてますから。 小学1年のときに悟ったんですけど、雑誌のまま、記事のままで置いといたら家の人に捨てられる可能性があるでしょ? ちっちゃい頃から、いかに物を残していくかばっかり考えて生きてきたんで、写真や記事に再構成を加えたスクラップブックというものは、本棚にも入れられるし、親も“子どもが作った作品”として認めるので、捨てないんですよ。 ちょうど怪獣のスクラップを始めたときに、コクヨの「ラ40」ってスクラップ帳が発売されたんです。だから、僕はコクヨとともに生きていると言っても過言ではありません。 でも最近は、町の文房具屋さんで置いてないところが結構あるんです。なんでもパソコンでやるようになって、スクラップ界もヤバイんです。もちろんヤマト糊の方も心配です。 ――オレンジのキャップのやつですよね。 みうら そうです。僕が使ってるのはアラビックヤマトLっていう商品なんですけど、コンビニで見つけると全部買っているんですよ。めちゃ売れてるように見せることで、再入荷してもらえたらいいと思って。文房具屋でも、コクヨの「ラ40」を見つけたらある分全部買っているんですよ。 その“活動”はずいぶん長いこと続けてるんですけど、あと何年持つのやら。スクラッパー人生もそれがないと始まりませんので、幕を下ろす日が来るのが不安でね。 そうそう、スクラップする人のことを“スクラッパー”って呼んだのは僕なんで、この映画のタイトルを見て、遂にネーミングが世界で流行り出しているのかと(笑)。 僕が知る限り、スクラッパーは、現代美術家の大竹伸朗さんと僕だけなんですけどね。そんなスクラップ帳に切り抜きを貼ってる人の人生が描かれてる映画が公開されるなんてことは、驚きです。 ――チラシ写真には男の人がなにか四角いものを持ってますね。 みうら ハハァーン、これがスクラップ帳の一部でしょうね。金具の部分かな(笑)。 チラシの写真だとこの町の様子はよく分からないですけど、湿気がある所ではね、スクラップ帳に糊付けするのはかなり危険というか、非常に貼りにくいんですね。だから糊は均等に、薄紙の場合は四方八方から貼っていくのをおすすめします。 ――水張りですよね。 みうら そうです。水張りの要領です。やっぱりスクラッパーって“匠”じゃないといけません。ハサミだってそれ用のハサミを使いますし、ミリ単位で切りますから。 この方は、僕よりは当然年下だろうけど、スクラップに相当なこだわりがおありだろうと思うんですよね。しかし、なにか事情があってスクラップをやめなくちゃいけなくなる。どうしても娘に継いでほしい……そのシーンがチラシの写真なんじゃないかなぁ。 ――でも本当にスクラップの映画だったら、みうらさんにコメントの依頼とか来てないんですか? みうら それがおかしなことに来てないんですよ(笑)。 ――じゃあそんな映画じゃないのかもですね(笑)。 みうら ですね。そもそもこのタイトルの“スクラッパー”ってスクラップする人の意味じゃないかもですね? ――今、そこから疑問を抱きますか?(笑) みうら (笑)。でも、「解体しながら闘う」ってコピーも書かれてるでしょ? スクラップする前には雑誌や写真集を解体しますからね。どうでしょう? ――映画監督のハーモニー・コリンに取材したことがあるんですが、渡された見本誌をすぐに切り取って、その場でスクラップにしていました。 みうら えっ⁉ ああ、やっぱりスクラップ映画かも(笑)。監督もかなりの重症なスクラッパーなんでしょうね。 ここに書いてあるように「いびつだけと愛おしい」。そんな目でこれからスクラッパーを見守ってほしいと思います(笑)。 取材・文:村山章 (C)2024 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED (C)2021 Lost Weekend, LLC All Rights Reserved 『ブルー きみは大丈夫』 上映中 『SCRAPPER/スクラッパー』 上映中 ■プロフィールみうらじゅん 1958年生まれ。1980年に漫画家としてデビュー。イラストレーター、小説家、エッセイスト、ミュージシャン、仏像愛好家など様々な顔を持ち、“マイブーム”“ゆるキャラ”の名づけ親としても知られる。『マイ修行映画』(文藝春秋)、『みうらじゅんのゆるゆる映画劇場』『「ない仕事」の作り方』(ともに文春文庫)など著作も多数。