日産アリアNISMO 電気のニスモは「風格と電撃のクロスオーバー」 800万円オーバーのスポーツSUVはアリか?
NISMOを操る喜びを感じるインテリア
インテリアはブラックを基調とし、インストルメントパネルを幅方向に貫くメタルフィニッシャーをはじめ、随所にレッドのアクセントを施している。アリアの特徴であるANDON(行灯)イルミネーションは、何度も試作を繰り返してアルテリアマグマにふさわしいレッドの発光色を実現したそう。NISMOのメタルロゴをスタート/ストップボタンの横に配したのは、「ドライバーがクルマと接する瞬間からNISMOを操る喜びを感じてほしい」との思いからだ。 シートはベース車のパワーシートをベースに手を入れた。表皮はスカイラインNISMOやフェアレディZ NISMOでも採用しているスエード調とし、滑りにくさを重視。差し色のレッドが覗くパーフォレーション加工を採用することでグリップ力を稼いでいる。シートバックのNISMOロゴの刺繍がアクセントだ。 サイドサポート部は形状を変更し、ホールド性を向上。尻と腰の部分に補強布を追加し、快適性を保ちながら姿勢保持性を高めている。
2.2トンのアリアを軽々と走らせる
走りについては、「安心感があり、気持ちよく、結果として速いクルマ」をコンセプトに開発に取り組んだ。これは、歴代のNISMO各車に共通する考えだという。このNISMO共通コンセプトをなぞるにあたり、「アリアは難しかった」と開発者は語る。なぜなら、ベース車がすでに600Nmの強大なトルクを発生し、速く、気持ちがよくて、安心して走れるクルマだからだ。 それに、車両重量が約2.2tもあり、GT-R NISMOやスカイラインNISMOに対してざっと500kgも重い。これをどうやってNISMOらしいクルマに仕立てるのか。 打った策のひとつはe-4ORCEのチューニングである。トルク配分をベース車に対して後ろ寄りにし、リヤタイヤをより駆動側に振り向け、フロントタイヤはより旋回方向に使うようにした。フロントのストラットは外筒の板厚をアップ(2.3mm→2.6mm)し、コイルスプリングのばね定数を3%アップ。スタビライザー(アンチロールバー)のばね定数を15%上げた。フロントのロール剛性を高める(前輪により仕事をさせる)チューニングだ。リヤはダンパー(ショックアブソーバー)の減衰力をチューニングした。 パワーステアリングは一般走行域では軽快さを感じ、高速域ではしっかり感を感じられるよう制御を変更。ブレーキ耐熱温度を上げたパッドを採用し、耐フェード性を向上。タイヤとブレーキパッドの変更に合わせてABSはチューニングをしなおし、ペダル踏み込み時のしっかり感を実現すると同時に、100→0km/hの制動停止距離を約8%低減した。VDC(ESC:横滑り防止装置)は介入のタイミングを遅らせ、スキルのあるドライバーでも限界域で気持ち良く楽しめる制御としている。 こうしたチューニングが効き、アリアNISMOはGT-R NISMOを超える旋回時横力を発生し(と、シラッと書いておく)、筑波サーキットを1分8秒で周回する実力(スカイラインNISMOにちょっと負ける程度)を備えるに至った。とはいえ、サーキットでの速さを追求するのがアリアNISMOの目的ではない。主戦場は公道である。そのため、操舵に対する車両の安定性やライントレース性を重視した。旋回加速時におけるコーナー出口の操舵角はベース車よりも12%低減しているというから、より狙いどおりにラインをトレースできるということだ。 また、タイヤやサスペンションは、旋回時のロール角の低減と同時に、突起乗り越し時の入力低減も意識してチューニングが行なわれた。「公道で走って気持ちいい」を実現するためである。 パワートレーンはどうか。ベース車の最大トルクが600Nmもあることは前述したが、最高出力だってすでに290kW(394ps)ある。これを320kW(435ps)まで引き上げた。日常ドライブでどのようにしてNISMOらしさを表現するつもりなのか。 駆動モーター フロント 形式:AM67型交流同期モーター 定格出力:45kW 最高出力:218ps(160kW)/5950-13000pm 最大トルク:300Nm/0-4392rpm リヤ 形式:AM67型交流同期モーター 定格出力:45kW 最高出力:218ps(160kW)/5950-13000pm 最大トルク:300Nm/0-4392rpm システム総合出力:320kW/600Nm まず、高速道路での追い越し加速で違いが感じられるようにした。80km/h一定からアクセル開度を50%まで踏み込んだ加速では、ベース車より高い加速Gを持続しながら、1秒速く120km/hに到達する。また、アクセル開度15%の発進加速では、レスポンス良く初期のGが立ち上がり、ベース車より高いGをしながら加速していく。 ドライブモードはベース車のSPORTに代わり、NISMOモードを設定した。ECOとSNOWモードはベース車を踏襲。STANDARDモードは制御を変更し、力強さと扱いやすさをバランス。Dレンジ(e-pedal OFF)では、ベース車に対して加速力を強く、減速力は弱めている。 NISMOモードも同様で、ベース車のSPORTに対して加速力を強め、減速力を弱く設定した(Dレンジ、e-pedal OFF選択時)。また、オプションでBOSE Premium Sound System & 10スピーカーを選択した場合は、フォーミュラEをイメージしたアリアNISMO専用のEVサウンドが付加される。 実物のアリアNISMOはひと目で走りに振ったスペシャルなモデルだとわかるし、ひと目でNISMOのモデルだとわかる。アルテリアマグマのレッドの差し色が効いている。インテリアも同様で、深いブラックと落ち着いたレッドのコンビネーションがいかにもNISMOだ。ギラギラしていないし、どぎつくないのがいい。 テストコースでの試乗(BOSEオプション装着車)だったので、(突起やザラザラした路面も設定されているものの)総じて公道より路面の状態は良く、そのため断言はできないが、日常使いで困惑しそうな硬い乗り味ではない。STANDARDモードではいかにもBEVらしく、極めて静かでスムースな走りに終始する。 態度が豹変するのはNISMOモードを選択したときだ。SF映画の効果音のようなサウンドがアクセルペダルの動きに連動して強くなったり、弱くなったりする。音の好みはあるだろうが、気持ちにスイッチが入るのは確かだ。 パイロンスラロームでは、スタンダードでもDレンジよりBレンジ、Bレンジよりe-pedal ONのほうが減速度は強くなり、車速のコントロールはしやすく、リズミカルにパイロンをクリアすることができる。タイトなコーナーの切り返しではさすがに重さを感じるが、長い直線からコーナーへの進入では狙いどおりに向きを変え、過度にロールせず、安定した姿勢を保ってクリアする。キビキビ動いて実に気持ちがいい。 直線では80km/hから120km/hの加速を試したが、「この速度域でこんなに激しく加速する?」と衝撃を覚えるほどだ。アクセルペダルの踏み込みに対する反応の良さはBEVならでは。大人しく走るときの上質さと、その気になったとき見せる電撃的な速さという、コントラストの強い二面性がアリアNISMOの魅力である。 日産アリア NISMO B9 e-4ORCE(91kWh) 全長×全幅×全高:4650mm×1850mm×1660mm ホイールベース:2775mm 車重:2220kg サスペンション:Fストラット式/Rマルチリンク式 駆動方式:FWD 駆動モーター フロント 形式:AM67型交流同期モーター 定格出力:45kW 最高出力:218ps(160kW)/5950-13000pm 最大トルク:300Nm/0-4392rpm リヤ 形式:AM67型交流同期モーター 定格出力:45kW 最高出力:218ps(160kW)/5950-13000pm 最大トルク:300Nm/0-4392rpm システム総合出力:320kW/600Nm バッテリー容量:91kWh 車両本体価格:944万1300円
世良耕太