朝鮮戦争“休戦”から70年・中国への遺骨返還を考える
祖国に帰った遺骨も「愛国主義教育」に利用
遺骨が戻った瀋陽には、「抗米援朝(=米国に抗い、朝鮮を支援する)烈士墓地」と名付けられた戦没兵士の墓地がある。今年返還された25人の遺骨は翌11月24日、その墓地に向かった。中国の国営メディアの報道によると、1万人を超える市民がその沿道を埋め、手に国旗や花を持ち集まった。 かつて中国人民志願兵だった90歳になる男性は、墓地で遺骨を乗せた車列を待った。男性は目に涙を溜めて「戦友を迎えにきた。それが私の義務と責任だ」と語ったという。ただ、ここまで整うと、いろいろ考えてしまう。 中国の報道によると「自発的に集まった」ということだが、動員をかけたのか、どうなのか? いずれにしても、中国当局が考えていることが想像できる。これらセレモニーは、やはり、愛国主義教育の一環であることは間違いない。 10年の節目ということもあるだろうが、今年は、遺骨になって国に帰ってきた戦没兵士を迎え入れる儀式を、これまでに比べて、より厳かなものにしたという。まず花輪の数が増えた。またこれまでと違って、人民解放軍で儀礼を担当する兵士(=より上級の儀礼兵)を起用した。 戦争で犠牲になった兵士への尊厳とともに、愛国主義教育を一層強化し、また、民族の感情をより込めたものにする狙いがあったという。 習近平指導部は、愛国主義教育に特に力を入れている、といわれる。共産党の正統性を強調するために、日本と戦った抗日戦争など、今の中華人民共和国が誕生する前の歴史はもちろん、大切。だが、共産党が政権を取った後の歩みも「正しかった」と証明しなくてはならない。 朝鮮戦争への参戦は、まだ国力が弱かった当時の中国にとって、大きな決断だった。だが、劣勢に陥っていた北朝鮮軍を、支援しなければ、現在の北朝鮮という国家が存在したかどうか。しなかったとなれば、鴨緑江という川1本を隔てただけで、韓国=その後ろ盾のアメリカと国境を接していたかもしれない。 今とはまったく違う北東アジアの地図が出来上がっていただろう。その戦場では、多くの中国人民志願軍兵士の血が流れた。だから、現在の中国は、これら犠牲になった人たちを敬い、尊ぶことはとても大切だ。 価値観が多様になり、戦争を知らない世代が増えれば、そんな歴史は遠い過去のことになってしまう。そのためにも、国営メディアを使って大々的に宣伝するのだろう。