吉川晃司さんが「凄い試合」と評したIBF世界Sウェルター級2位決定戦とは?
採点を聞く前、井上は「競っていたし不安があった」という。 リングアナは「115-113」、「116-113」、「116-112」とスコアを読み終わるまで勝者を告げなかったが、野中は「勝ちはないな」と覚悟したという。 「自分のボクシングが通用しなかった。相手が上だった。それだけ……明白にポイントを取ったラウンドがなかったからね。いろんなパターンを試したけれど後手に回った。効いたパンチもなかったけれど、見栄えがよくなかった」 どこまでも潔い40歳は、自らの進退に触れなかったが、ボクシングに別れを告げるかのように、リングを去る際、キャンバスにひざまずいてキスをした。 野中と親交があり応援にかけつけた歌手で俳優の吉川晃司さんがこんな話をしてくれた。 「残念ですが、凄い試合を見せてもらった。後半はポイントを取っていただけに惜しかった。40歳。ひとまわりも年齢の違う相手にね。負けはしたが、野中選手に勇気をもらいました」 ランキング9位と11位で争うとても変則的なIBF世界2位決定戦を“凄い試合”にしたのは40歳のボクサーの生き様だったのかもしれない。 そして野中の気持ちを代弁するかのように吉川晃司さんは、こう言葉を続けた。 「野中選手が次へ行けなかった分まで井上選手には絶対に勝ってもらいたいね」 野中は世界へと旅立つ若造に“血と魂”でボクシングを教えたのだ。 「野中さんは強かった。尊敬できる人だった。ガードが下がると左クロスにアッパーをもらいリズムが崩れた。でも今スーパーウェルターで一番強い人に勝って世界へいける。野中さんの思いを引き継いで世界へいきたい」 敗者をリスペクトする井上のコメントは心地良かった。 勝者の井上は、これでIBFの2位にランキングされることになり、4月7日に行われた1位決定戦に勝ったウィリアムズと世界挑戦者決定戦を戦うことになっている。日本になるか、米国になるか、開催場所も日時も未定だが、そのオプションを担保するペーパーがあって、ついに日本人の世界挑戦がとても難しいとされている中量級で世界の一歩手前まできた。