「赤字」のスクールバス車両に広告 登下校の貴重な足が存続の危機、高校教頭とバス会社社長が営業に奔走
高遠高校(伊那市)のスクールバスが10月から、車体への広告掲載を始めた。生徒が登下校に使う貴重な「足」だが、近年は生徒数の減少や燃料費、人件費の高騰で収支が悪化。少しでも財源を増やすために、学校と、バス運行を担う会社が発案した。地元に事業所を置く企業に営業をかけ、これまでに5社の広告を掲載した。「走る広告塔」としてPRし、さらなるスポンサー獲得を目指す。 【写真】下校時刻、広告でラッピングされたスクールバスに乗り込む高遠高校の生徒たち
全校の3割が利用
13日午後4時前、校門前に止まった2台のバスに下校する生徒が乗り込む。宮田村から通う3年生は、スクールバスがなければ電車と路線バスを乗り継ぐ必要があるといい、「スクールバスがないのは考えられない」。バスは全校生徒約280人の3割ほどが利用する。
バスの車両は3台。このうち1台は広告で車体全体をラッピング。もう1台も後部に広告を載せている。広告主は食肉製造会社、自動車整備工場、福祉施設などさまざまだ。
バスの運行は、こまくさ観光(駒ケ根市)が担う。登校時は駒ケ根市内から2便、箕輪町から1便の計3便を運行。下校時は箕輪町方面と駒ケ根市方面を2便ずつ運行している。
収支は赤字
運行は、生徒の通学時の事故を心配するPTAの要望で2011年に開始。経費は主に生徒の利用料で賄う。ただ、こまくさ観光の岩本光市社長(54)によると収支は赤字で、不足分は同社が負担している状態。岩本社長は「このままでは会社から遠い箕輪町方面のバスの存続が難しくなってくると、学校に伝えていた」と打ち明ける。
教頭と社長で企業回り
「営業は初めてだったので大変でした」。広告掲載を発案した同校の小川智道教頭(51)は苦笑しつつ振り返る。7、8月、岩本社長と2人で約30社を回って広告掲載を依頼。岩本社長のつてがあった企業を含めこれまでに6社が依頼に応じ、実際に5社の広告掲載にこぎ着けた。5社のうちの1社で、伊那市内に工場があるパン製造のパネックス(岐阜県可児市)は、社員に同校卒業生がいることもあり「地域の将来を担う高校生のために少しでも役に立ちたかった」としている。
地域の応援が励みに
県教委によると、高遠高校のような方式でのスクールバス運行は県立高校では珍しい。「生徒を募集するときにスクールバスがあるかないかは大きい」。小川教頭はこう話す。ただ、現状でもまだ収支を黒字にするのは厳しい状況で、引き続きスポンサーを募っている。岩本社長は「生徒の足の確保を、地域が応援してくれていると思えることが、私たちの励みになる」と話している。