今後10年間で出生数が半減「最悪の悪循環」の正体 「少子化」「老後不安」がお互いを悪化させている
筆者は大学生向けに講演することもあるのだが、最近では大学生たちからも「老後不安」という言葉を耳にするようになった。 少子化の要因として、「老後不安」に起因するお金の不安があることは間違いなさそうだ。 ■2000万円という数字は「蜃気楼」のように遠のく しかしながら、みんなが資産形成に精を出して、無事に2000万円貯めたとしても、老後の問題は解決しない。 みんながお金を貯めるほどに、老後安心できる金額が蜃気楼のように逃げていくからだ。すでに物価上昇が起きているが、物価はさらに高くなり、2000万円では足りなくなってしまうだろう。
拙著『きみのお金は誰のため』では、この老後の問題について、先生役の“ボス”と呼ばれる人物が主人公・優斗に次のように説明している。 「僕もほんまにそう思うわ。少子化によって働く人の割合が減るってことは、(イス取りゲームの)イスが減るということや。その一方で、高齢者は増えるから、介護職の数を今後20年で3割増やさんとあかんと言われている。仮に、増やせたとしても、他の仕事をする人の数が減る。他の分野で物やサービスが足りなくなるんや」
優斗はため息をついた。 「無理ゲーですよ、それ。お金貯めても、物が足りなければ、値段が上がるんですよね。お金をたくさん持っていたらイスに座れるけど、誰かがイスからはじき出されるってことでしょ?」 まさに、相手を蹴落とすことでしか勝ち残れないサバイバルゲームだ。みんなで協力して生き残ることなんてできやしない。 「1億2000万人もおると、イスの数が減っていることにも、誰かをはじき出していることにも気づかへん。みんなが、お金を貯めさえすればいいと思ってしまうんや」
「イスを買うお金を貯めるんじゃなくて、すぐにイスを作ったほうがいいですよ」 「優斗くん、それなんや」 ボスはニカッと笑った。 「僕らは、未来のためにイスを作らんとあかんのや」 (中略) 「でも不思議ですよ。そんな当たり前のことに誰も気づけないなんて」 「気づいている人はいくらでもおるで。これは、社会保障の経済学では当たり前の話やし、年金制度を作る厚生労働省も同じ意見や。年金の問題を解決するには、お金を貯めてもしょうがない。少子化を食い止めたり、1人当たりの生産力を増やしたりしないとあかん」