イオン、女性経営者を10カ月集中育成 244店束ねる九州営業トップ輩出
イオングループでは2024年3月、イオン九州の上級執行役員営業本部長に内田昌代氏が就任した。九州全域の計244店舗を統括する女性初の営業トップで、部下は1万5000人を超える。 【関連画像】イオンは女性経営者候補の発掘と育成に特化し、22年に「女性経営者育成プログラム」を新設した。上はプログラム内の異業種交流の様子(写真=イオン提供) 内田氏は、イオンが22年からスタートさせた10カ月に及ぶ「女性経営者育成プログラム」の1期生として学んできた。今回の就任は育成の成果が表れたものといえる。 日経WOMANなどが共同で実施した「女性活躍度調査」ランキングの上位企業に共通する目下の課題は、課長クラスより上位の管理職を増やすことだ。女性の課長は着実に増えており、その候補となる社員の母集団も形成できている。次なる関門が部長クラスへの昇進拡大というわけだ。 企業のD&I(ダイバーシティー&インクルージョン)や女性活躍などに携わるキャリアンの河野真理子代表取締役は「意思決定層に女性が加わることが重要なのは同質のメンバーの集まりには偏りが生じるから。異なる価値観や視点を持つ人が集まることでイノベーションが生まれるし、リスク回避にもつながる。異なる価値観を持つ女性が必要だ」と説明する。 中でもイオンは、例えば間接部門などではなく、グループの事業の核に当たる部署での女性管理職登用を目指している。「中核部門での管理職拡大を実現しないと、本当の意味でのイノベーションにつながらない」(イオンDE&I推進室の江藤悦子室長)と見て、活動に力を入れてきた。
女性経営者育成プログラムの受講生はグループ各社の部長以上が対象で、22年は23人、23年が19人、今年は26人が参加。次期役員候補となる層が着実に育っていることがうかがえる。 ●プログラムは理論研修から異業種交流まで 10カ月にも及ぶプログラムは「マインドセット」「自己認知と行動変容」「知識の習得」が3本柱。ビジネススクールの講師から経営戦略やマネジメント理論などを学ぶほか、イオン執行役によるメンタリング、異業種交流、上司との1on1(ワンオンワン)、コーチング……など盛りだくさんの内容だ。 10カ月という期間を設定したのは、「いい話を聞いた」で終わらせないため。インプットしたら、現場に戻りアウトプット、内省して次の行動に生かす――というサイクルを受講者が10カ月続けることで、学んだ内容を実際の行動を通して身に付けてもらうことを狙った。 プログラムで特にこだわったことの1つ目が、メンタリングだ。イオンではこれまで経営陣がメンターを務める機会がほぼなかった。今回、江藤室長が執行役10人に直接説明し、協力を取り付けた。「経営者から直接学ぶ以上の良い機会はそうない」と考えたからだ。 内田氏が参加した際にメンターとなったのは、イオンの羽生有希副社長。「マネジメントしていく中で時間がとにかく足りない」という課題を相談した。「自分以上に忙しい中で業務を遂行している副社長は実際、どんなふうに対処しているのかを知りたかった」(内田氏) 羽生副社長からのアドバイスは「ホットな情報こそホットに流す」。この言葉を受けて内田氏は自社に戻り、柴田祐司イオン九州社長(当時)の動きを観察。すると、会議で意見が出たときに、パソコンですぐに調べたり、部下にメールで指示を飛ばしたりしている様子が見て取れた。「そういうことかと腑(ふ)に落ち、早速やり方をまねたら仕事のスピード感が増した」と内田氏は言う。