ドラマ『TOKYO VICE Season2』:アンセル・エルゴート&渡辺謙、90年代の東京を通じて伝えたいこと
稲垣 貴俊
日米共同制作ドラマ『TOKYO VICE Season2』は、1990年代の東京を舞台に、警察と新聞記者、ヤクザが入り乱れるクライム・サスペンスのシーズン2。2022年のシーズン1に続いて主演を務めるアンセル・エルゴートと渡辺謙に、いま「ダークな東京の物語」を描く意味や、日本語と英語が交錯する撮影の秘密などを聞いた。
1990年代・東京の裏社会を描く緊迫のサスペンス『TOKYO VICE』。日本のWOWOWとアメリカのMax(旧HBO Max)が手がける日米共同制作ドラマが、いよいよシーズン2の放送を迎える。 主人公のアメリカ人新聞記者・ジェイク役は、『ベイビー・ドライバー』(17)や『ウエスト・サイド・ストーリー』(21)のアンセル・エルゴート。ジェイクの師となる敏腕刑事・片桐役は、日米を股にかけて活躍する名優・渡辺謙が演じた。 シーズン1で日本語の台詞(せりふ)に初挑戦し、撮影終了後も日本語の勉強を続けてきたエルゴートは、渡辺とのWインタビューにほとんど日本語で応じてくれた。足かけ4年のタッグとなった渡辺の存在を、「僕のキャリアで一番長い関係。謙さんと仕事ができて本当に嬉しいし、感謝していますし、幸せです」と語る。
衝撃のシーズン2
『TOKYO VICE』シーズン1は、ジェイクと片桐たち登場人物がみな窮地に立たされる衝撃の結末を迎えた。番組のファンと同じく、出演者たちもシーズン2の展開を楽しみにしながら製作の始動を待っていたという。 渡辺 謙 シーズン2は新しい展開からではなく、シーズン1で登場人物が味わった挫折がさらに深まるようなスタートを切ります。前回と同じところから再び始められたので、片桐という役には自然に戻ることができました。とはいえ、片桐は以前と別の役割に就き、ジェイクもヤクザの取材から離れている。うまい脚本だと思いましたね。 ―撮影現場の様子はいかがでしたか。 渡辺 シーズン1の当時はコロナの影響が大きく、撮影自体がかなり困難でした。だからある種の団結力はありましたが、今回はより自由に、リハーサルから通常のプロセスで製作できた。気軽に冗談を言い合えたし、楽しい時間を過ごせましたね。 アンセル・エルゴート 自分の撮影がないときも、「謙さん、来週の撮影は日本語の台詞があるんですけど……」と相談していました。 渡辺 日本語と英語が台詞の中で混在しているので、それぞれの使い分けを早めに決めないと混乱してしまうんです。だから顔を合わせるたびに話し合い、たまにLINEでも相談しました。「俺はここを日本語で言いたいから、その後は英語でどう?」と。 ―日本語と英語の使い分け方はお二人が決めていたんですね。「ここは日本語、ここは英語」という基準はどこにありましたか? 渡辺 台本には(脚本の)J.T.ロジャースが書いた英語の台詞と、その日本語訳が両方載っていたんです。なかには「この台詞は日本語で」と指定されていた箇所もありますね。言葉の使い分けに決まったルールはありませんが、大切なのは視聴者が混乱しないこと。字幕を読むのも大変なので、むやみに使い分けず、ある程度のブロックごとに分けようと考えました。ただし僕としては、片桐が自分の過去や心情を語る台詞は日本語で伝えたい。同じ理由で、アンセルがあえて英語を使ったところもあります。 エルゴート ジェイクは僕自身よりも日本語がペラペラだから、仕事の話や、彼が大切にしていることを話すときは日本語で全部しゃべりたいと思いました。謙さんに「ここは英語がいいよ」と言われることもありましたが(笑)、できるだけ日本語で頑張りましたね。 渡辺 かなりトライしてくれました。「ここは絶対に日本語で言いたい」と言うので、「じゃあ練習しろ」と(笑)。 エルゴート アメリカのスタジオから「もっと英語を増やして」という要求もありましたが、それはおかしいと思いました。これは日本の物語だし、ジェイクも日本に来ているんだから。最終的には英語と日本語が半分ずつになりました。 ―シーズン1の後、どのように日本語を勉強しましたか? エルゴート シーズン2の撮影が始まるまで、日本には少ししかいられなかったので、日本語の先生とZoomで勉強を続けました。僕の日本語はまだまだなので。 渡辺 日本語って本当に難しくて……。英語が簡単かと言われれば、僕にとっては簡単ではないんだけど(笑)、とにかく日本語は言葉のレイヤー(階層)が多いですよね。台詞の中にも警察用語とヤクザの言葉、ジャーナリストの言葉があるし、世代が違えば使う言葉も変わる。敬語もあるし、数字の数え方にもパターンがあります。 アンセルは撮影中でも、1週間くらい休みができると日本国内をあちこち旅行して、いろんな人と喋り、撮影現場では聞けないような言葉や話を聞いてきていました。スタッフともできるだけ日本語で喋っていましたよ。 エルゴート シーズン2を撮り終えて思ったのは、そもそもシーズン1が始まる前の時点できちんと準備をしたつもりでしたけど、本当はまだまだ足りなかったんだなと……。 渡辺 反省してるの?(笑) エルゴート そうです、本当に。もっと時間をかけて準備をしなければいけないんだと勉強になりました。いまでは漢字も書けるようになり、やっとシーズン1を撮りはじめられるようなレベルになったと思います。当時は日本語が全然わからなかったので。 ―アンセルさんは日本のアパートに住んだことがあるそうですね。 渡辺 個人的に部屋を借りたらしいですよ。 エルゴート 下の階が居酒屋さんで。 渡辺 メシを食いに行けるんだよね。 エルゴート そう、すごく日本に入り込めるんです。部屋も畳で、僕は畳の匂いが大好きなので、その上で正座して……。そういう生活、すごく好きですね。健康にもいいし、冬はちょっと寒いですけど、そういうときは銭湯に行って。町の人たちと話し、居酒屋でお酒を飲んで、日本語と日本の文化を学んでました。 渡辺 (『男はつらいよ』の)寅さんみたいでしょう(笑)。