ドラマ『TOKYO VICE Season2』:アンセル・エルゴート&渡辺謙、90年代の東京を通じて伝えたいこと
ダークでネガティブな日本像を描くこと
―日本の明るい面ではなく、むしろダークで暗い部分を描いた物語です。おふたりはエグゼクティブ・プロデューサーも兼任していますが、どんな日本の姿を世界に伝えたいと考えましたか? 渡辺 90年代は非常に興味深く、また面白い年代です。経済状態は良くなかったし、社会構造や精神構造も旧時代的でしがらみが多く、誰もが心に闇やわだかまりを抱えていた。だから、この時代から現代の歪みは始まっていた気がするんですよ。もしかすると、我々の間違いの原点はここにあったのかもしれないって。 渡辺 結局は日本って、自分たちの国をあまり描けていなかったんですよね。政界と裏社会、もしくはちょっと危ない宗教との関係。いま現在も「あるよね」と言えることに触れてこなかった。そういう問題は世界中にあるもので、アメリカでは映画やドラマで政界と製薬会社の癒着などを平気で描きますが、日本はそこに踏み込めなかったんです。このドラマはフィクションなので、すべてがリアルかどうかは別ですが、そういう社会の本質的な部分にようやく切り込めたのが新しさなのかもしれません。 エルゴート 謙さんの言う通り、こういう問題は世界中にあります。だけど、僕は東京という街をすごく面白いと思うんです。初めてこの街に来たとき、すごくイメージが湧いてきて、いい作品を作れると確信しました。東京は主役のひとりです。
善悪の曖昧さと葛藤、その「人間らしさ」
『TOKYO VICE Season2』には前シーズンから、女性記者・詠美役の菊地凛子、若きヤクザ・佐藤役の笠松将らが続投。新キャストとして、佐藤の兄貴分・葉山役の窪塚洋介、片桐とコンビを組む警視・長田役の真矢ミキらが加わった。より強力な布陣で、物語は群像劇としての厚みをより増してゆく。 ―ジェイクや片桐たちは悩んだ末にしばしば決断を誤り、正しくない方向に進むこともあります。ドラマシリーズならではの、長い時間をかけて人物を掘り下げる作劇の醍醐味を教えてください。 渡辺 やっぱり、単にストーリーだけを展開しても面白い話や巨大な物語にはならないんですよね。それぞれの人物がいろんなものを抱えながら、苦しみ、悩み、喜ぶ……そういう心情のレイヤーが重なっていくからこそ、観ている人が感情移入できるし、心をつかまれる。素敵な脚本とはそういうものだと思います。 エルゴート 登場人物みんなにプライベートと仕事があり、その両方がつながっていますよね。片桐とジェイクはヤクザを捕まえたいけれど、ヤクザを刺激したら家族やパートナーが危険にさらされてしまう。 渡辺 それでもジェイクはヤクザの愛人に手を出すんだけどね(笑)。観ている側は「なんで?」って思うでしょうけど、わざわざ彼は自分の身を危険にさらしてしまう。 エルゴート 葛藤しながら演じましたが、とてもやりがいのある役でした。モラルの基準が難しい物語で、ヤクザたちも全員が悪人ではないんです。悪人の中にも、完全なる悪と、グレーな悪がある。ジェイクも最初は「白」か「黒」のどちらかしかないと考えますが、この社会はとても複雑で、そこにグレーな部分もあることを理解していきます。 渡辺 いまの時代は二者択一というか、両極端じゃないですか。「正しくないものはすべて悪」と言うかのように、あまりにも二極化しすぎている。だけど僕は、「白」と「黒」の境目がにじむような感覚をおぼえ、その中で葛藤するのが人間らしさだと思います。「そういう苦しみを感じたことはありませんか?」と問いかけたいですね。 ―ジェイクや片桐たちの物語は、このシーズン2でどう展開していくのでしょう? 渡辺 どうなるんでしょう(笑)。僕たちも新しい台本をもらうたびに「ええ、そうなるの!」と驚きましたよ。最初に構想を聞き、全体の流れは知っているつもりでしたが、それでも驚いた。ストーリーが転がり、膨らんで、時には歪んでいく……その驚きは視聴者にも必ず伝わると思います。 エルゴート ジェイクの出てくるシーンはいつも面白く、俳優として非常に演じがいがありました。台詞や会話のやり取りも素晴らしい脚本なんですよね。 渡辺 脚本を読んで「どうやって撮るの?」と思った場面もありますし、僕たちも作品を見てビックリしていますよ。皆さんにも次のエピソードまでの1週間をドキドキしたり、イライラしたりしながら(笑)過ごしてほしいですね。 取材・文:稲垣貴俊