「金持ち」から「時持ち」へ……日本人の時間感覚も成熟度を増してきた
「精神的豊かさ」は「時間の使い方」と気づく
日本人が本当に、「精神的豊かさ」や「時間の大切さ」に目覚めたのは、1980年代後半から続いたバブル経済の崩壊だった。欲しいモノを手に入れるためにがむしゃらに働き、バブル景気に煽られて、ブランド物や高級車を買って、高揚感はあったが、幸福感は得られなかった。90年代初めにバブルが弾けて平常心を取り戻してみると、高いモノを買い集めても幸せはやってこないことを実感したのである。 むしろ、自分の納得できる人生を歩むことが、幸福につながる。つまり、希望する人生を歩むには、「時間の使い方」が問題なのである。大切なことは、自分の時間を差し出してでも「金持ち」になることではなく、自分の人生の目標を叶えるために、自由に使える時間を十分に持つ「時持ち」になることこそがステータスであることに気付いた。 さらに、日本人の平均寿命は急速に延び、「人生100年時代」が見えてきた。「人生70年時代」には、定年後の時間も限られており、「老後」の時間を過ごせば、終着点が見えていたが、「100年」となると、「第二の人生」を真剣に考えなければならなくなる。 バブルの崩壊から四分の一世紀が経ち、多くの人びとが「定型的な人生」に別れを告げて、自分のやりたい人生を歩み始めた。日本人の時間感覚もようやく、成熟度を増してきた。 ---------- 織田一朗(時の研究家)山口大学時間学研究所客員教授 1947年生まれ。71年慶應義塾大学法学部法律学科卒業。(株)服部時計店(現セイコー)入社。国内時計営業、名古屋営業所、宣伝、広報、総務、秘書室勤務を経て、97年独立。以後、執筆、テレビ・ラジオ出演、講演などで活動。日本時間学会理事(2009年6月~)、山口大学時間学研究所客員教授(2012年4月~) 著作:『時計の科学―人と時間の5000年の歴史』(講談社ブルーバックス)『「世界最速の男」をとらえろ!』(草思社)『時と時計の雑学事典』(ワールドフォトプレス)『あなたの人生の残り時間は?』(草思社)『「時」の国際バトル』(文春新書)『知ってトクする時と時計の最新常識100』(集英社)『時計と人間―そのウォンツと技術―』(裳華房)『時と時計の百科事典』(グリーンアロー出版社)『時計にはなぜ誤差が出てくるのか』(中央書院)『歴史の陰に時計あり!!』(グリーンアロー出版社)『日本人はいつから〈せっかち〉になったか』(PHP新書)『時計の針はなぜ右回りなのか』(草思社)『クオーツが変えた“時”の世界』(日本工業新聞社)など多数。