取手市「中3いじめ自殺」10年目の真実に迫る なぜ調査報告書はでっちあげられたのか
ショックのあまり崩れ落ちた教諭
しかし、茨城県教育委員会は2019年7月25日、この調査報告書を基に、教諭に対して停職1カ月の懲戒処分を言い渡した。これは行政処分としては突出して重い処分である。教諭はこの言い渡しを受けた時、ショックのあまりその場に崩れ落ちたという。 梶原教諭は事件発生数日後からバッシングにさらされていた。 「お前なんか人間じゃない! 人格者ではない!」「美恵子を返してくれよ!」との遺族からの激しい敵意は尋常ではなく、教諭の耐えうる限度をはるかに超えていた。 取手市の教育委員会は当初、教諭の指導に問題はなかったと公表していたが、その後、態度を豹変させる。そして、厳しい叱責と罵声が飛ぶ中、教諭は深夜に及ぶ長時間の聴取を強いられた。
追い打ちをかけたマスコミとネット世論
マスコミにも追いかけられた。特に「週刊文春」(2017年6月15日号)は、「担任は、生徒の好き嫌いが激しいことで有名だった。態度にはっきり出る」「担任はいじめっ子を信頼して、叱るのは美恵子さんだけだった」といった内容の事実と異なる記事を掲載した。また、3人の生徒による「いじめ」についても、うわさレベルのでたらめな証言を載せている。さらにインターネット上ではその「いじめっ子」たちとともに教諭の顔、氏名がさらされ、罵詈雑言を投げつけられた。学校には「首をつって死ね」などの脅しの電話や脅迫状も届いた。 梶原教諭は追い詰められ、重度のうつ病に罹患。ついに2019年2月1日に自殺を図った。幸い、夫の泰氏(仮名)が未然に気付き事なきを得たが、泰氏は妻の陥った苦境に心を痛めた。 当時、高校の教頭だった泰氏は同じ教員として、妻は何があってもまず第一に教え子のことを考える、生徒思いの教員であることをよく知っていた。その妻がよりによって、いじめに加担したとして教員失格と断罪されたのだ。 このため泰氏は、妻の潔白を証明すべく、夫婦で話し合い、県に対し処分の取り消しを求めて訴訟を起こすことを決心した。そしてこの判決を勝ち取るまで妻を献身的に支え、共に闘ったのである。