オランダ下院選で自由党伸びず 「反ポピュリズム」は本当に勝ったのか?
「緑の党」が大躍進、中道左派は惨敗
今回のオランダ下院選における最大のサプライズは、30歳の若い党首に率いられた緑の党が大躍進を見せたことだ。選挙前に下院で4議席しかなかった緑の党だが、若い有権者を中心に支持を伸ばし、前回から10議席増となる14議席を獲得し、下院で5番目に大きな勢力に変貌を遂げた。緑の党は1990年に設立された政党だが、2015年に党首が現在のジェシー・クラーベル氏に変わると、SNSを駆使して多文化主義とEUの重要性を唱え続けた。選挙前に緑の党がアムステルダムで行った集会には5000人が集まり、フェイスブックで11万人以上のフォロワーを持つクラーベル氏が発信する情報は拡散されて、実際には数百万人が目にしたという報道も。国の人口規模を考えれば、これらの数字は特筆すべきであろう。首都のアムステルダムでは約20%の有権者が緑の党に投票しており、首都では最も支持される政党となった。 逆に今回の選挙で大敗したのが、中道左派の労働党だ。選挙前には下院で38議席を抱え、自由民主国民党に次ぐ第2党であった労働党は、一気に29議席を失った。2012年の選挙で38人が当選し、首都のアムステルダムでは35%を超える得票率を記録した労働党の凋落はすさまじく、今回の選挙ではアムステルダムで約8%の得票率しかなかった。また、ロッテルダムでも2012年に記録した32%の得票率が、今回の選挙では6.4%にまで急落し、トルコ系オランダ人によって2015年に旗揚げされたばかりの新興リベラル政党にも得票率で敗北を喫し、第7党にまで落ちる始末だ。連立政権の中で労働党が党のモットーに基づいた政策を実行できなかったことに多くの支持者が失望したことが原因であったという見方が強い。
フランスでは女性のルペン支持者が増加
反EU・反イスラムを掲げた自由党が、オランダ下院選挙で20議席しか獲得できなかったが、これから予定されているドイツとフランスでの選挙で排外主義勢力が、オランダ下院選の結果を受けて勢いを落とすかは不明だ。下院選挙直前にトルコ閣僚のオランダでの政治集会参加をめぐって、トルコとオランダの間で外交上の激しいやり取りが発生したことは先週の記事内で紹介したが、トルコのエルドアン政権に対して妥協しない姿勢を見せたルッテ政権への評価が下院選直前に急上昇し、結果的に自由民主国民党の大敗を防いだのではないかという見方すら存在する。 つまり、自由党は議席を伸ばすことができなかったものの、トルコのエルドアン政権が見せる強権的な姿勢やイスラム教に対する不安が、オランダ下院選挙に少なからず影響を与えた可能性は依然として残り、反イスラムをめぐる議論はオランダ社会でこれからも続くことは容易に想像できる。 欧州各国に対して挑発的な姿勢を見せ始めたトルコの存在や、ピーク時から大きく減少したものの現在もヨーロッパを目指す多くの難民たち、テロに対する不安などが原因となって、排外主義をうたうポピュリズムの嵐がフランスやドイツで増大することはないのだろうか? 4月にフランスで行われる選挙は議会選挙ではなく、国のトップを決める大統領選挙だ。11人が正式に立候補したフランス大統領選挙。最新の世論調査では、無所属で中道のマクロン前経済大臣を、極右政党「国民戦線」のルペン党首が僅差でリードしている。 フランス世論調査研究所(IFOP)の調査では、女性有権者のルペン支持が4年前よりも約10%上昇していた。トランプがアメリカ社会で疎外感を覚える白人有権者に大きくアピールしたように、ルペン候補は今のフランス社会で疎外感やフラストレーションを抱える女性に反イスラムや反EUの必要性を積極的に訴えており、女性有権者の投票率が大幅に伸びる可能性もある。欧州における排外主義ポピュリズムはまだしばらく続きそうな気配を見せている。
------------------------------ ■仲野博文(なかの・ひろふみ) ジャーナリスト。1975年生まれ。アメリカの大学院でジャーナリズムを学んでいた2001年に同時多発テロを経験し、卒業後そのまま現地で報道の仕事に就く。10年近い海外滞在経験を活かして、欧米を中心とする海外ニュースの取材や解説を行う。ウェブサイト