圧巻トライ!サントリーのW杯戦士、松島幸太朗はなぜフランス一部クレルモンへの移籍を決意したのか?
最終的には6トライを奪い、40-14のスコアで2勝目をあげるとともに、3トライ差以上をつけた際に与えられるボーナスポイント1も勝ち点4に追加した。同時に2トライ2ゴールを返された、後半18分以降の9分間を反省材料としてもあげたNEC戦は、松島にとって特別な一戦だった。 フランス国内1部リーグ・トップ14のASMクレルモン・オーヴェルニュへ、今夏に移籍することが電撃的に発表されたのは1月28日だった。シーズンが開幕した直後の発表にも関わらず、松島が強い海外志向を抱いていることを知っていたチームメイトたちは笑顔で祝福してくれた。 「みんなおめでとうと言ってくれたので、その気持ちは素直に嬉しかった。だからこそ、トップリーグの優勝へ向かって、いまはサントリーの一員として全力で戦っていきたい」 近年では2010年と2017年のトップ14を制覇。代表チームの6カ国対抗を争うイングランド、フランス、スコットランド、ウェールズ、アイルランド、イタリア各国のリーグ戦の上位勢が集う、ヨーロピアンラグビーチャンピオンズカップでもクレルモンは2013、2015、2017年と準優勝している。 クラブ名称がASモンフェランデーズだった2002年には、後にテストマッチにおける通算トライ数69の世界記録を樹立する名ウイング、大畑大介さんが練習参加している。最終的にはプロ契約を勝ち取れなかったほどの強豪クラブから届いたオファーは、もうひとつの夢を松島に封印させている。
「僕自身として、海外に行くタイミングはいましかないと思ったので。非常に難しい選択でしたけど、自分の目標はやはり15人制の方だったので、自分の気持ちに素直に従いました」 7人制ラグビーが実施される東京五輪への挑戦も、目標のひとつとして描かれていた。ワールドカップ日本大会で両翼を形成し、いつしか「ダブル・フェラーリ」と畏怖された福岡堅樹(パナソニックワイルドナイツ)は東京五輪出場を目指し、すでに今シーズンのトップリーグに別れを告げている。 7人制のウイングには、特にスピードに特化した性能が求められる。松島も例外ではなく、胸板がたくましく膨れあがった、身長178cm、体重88kgの筋骨隆々の肉体から筋肉の鎧をそぎ落とす肉体改造を施さなければいけない。当然ながら、15人制とは一線を画す覚悟が求められる。 福岡からラブコールを送られていた松島は、しかし、最近になって曖昧な態度と返答に終始していた。2023年に次回ワールドカップが開催されるフランスの、それもトップレベルにあるクレルモンから届いたオファーは、松島をして「求めていることがすべて一致していた」と言わしめるほど魅力的だった。 「自分を選手として、シンプルに求めてくれるクラブから声がかかった。(クレルモンの)熱意という点も含めて、僕自身にとってはすごく重要なところだったので」 ロシア代表に快勝した開幕戦で達成したハットトリックを含めて、通算5トライをあげたワールドカップ日本大会で演じた大活躍が、オファーの背景にあることは間違いない。ただ、まもなく27歳になる松島にとっては通過点であり、フランス大会をにらんでもっと、もっと成長したいと思い描く。 「いま現在の位置というものに満足しないで、成長することに対して意識を高くもっていく。個人的にはどの試合でもクオリティーの高いプレーをして、MVPを狙える位置につけていきたい」 今シーズンの開幕直後には、松島はさらなるステップアップを誓っていた。だからこそ、2022年6月までの2年契約を提示してきたクレルモンのオファーを前にして、2013年から所属してきたサントリーから旅立つ決意を固め、最後はサントリーも背中を力強く押してくれた。 「残り少ない時間のなかを1試合、1試合しっかりと、いまのチームで成長していきたい」