踊らないインド映画『ガンジスに還る』に見る 幸福な最期の迎え方とは?
── この作品はとくにどの世代の人たちに観てほしいと思いますか? ブティアニ監督:どの世代を意識して描いたかというよりも、家族そのものを描きました。三世代の家族、孫娘がいて、その両親とおじいちゃんという。この家族のありようを描いたつもりでいます。ですから家族の中で起きるいろいろな情念、後悔の念であったり。たとえば父親になって、いつの間にか自分の父親と同じような悩みを抱えるようになるのです。それで「けっこう似ているところがあるな、親父と」思うわけです。そういう家族の中でそれぞれが感じることなどを描いているつもりです。おじいちゃんと孫娘は仲がいいけれど、息子とはけんかばっかりで。一世代またぐと仲がよかったりだとかを描いています。家族の話なわけですけれども、たびたび脳裏に浮かぶのは小津安二郎の『東京物語』ですね。撮影中もよく思い出していました。
感極まってしまった「さよなら」のシーンは美しくもやはり切ない
──ガンジス河の美しい風景や父子の会話のシーンなどたくさんの印象的なシーンがあります。おじいちゃんと孫が仲良し、という設定も微笑ましいですね。監督のお気に入りのシーンとは? ブティアニ監督:印象に残っているのはラジーヴがダヤに「さよなら」と言わなければならないシーンなんですけれども、とても撮影するのが大変でした。何か訴えかけてくるようなところがあって、僕自身も感極まってしまったシーンです。とても美しいシーンなんですけどね。これが最も印象に残っています。 また映画の冒頭で子牛を寄進するシーンがあるんですが、これは伝統的な慣わしなんですけどね。家族それぞれがそれぞれに反応を示すんですけど、そこから家族の人たちの性格が見えてくるんですね。ここも印象に残っています。 撮影で楽しかったのは河辺で儀式をやっているシーンですね。ボートからボートへ飛び移って、あれは再現ではなく、実際の儀式を撮らせてもらっています。「そこに立ってくれませんか」とか参加者に声をかけてお願いするなど、ちょっとしたアドベンチャーでもあり、いい絵が撮れたと思います。