中小企業がなんとなくインディーゲーム開発に乗り出すと何が起きるのか!? スケジュール、予算、PR…あらゆる点に潜む“落とし穴”にハマってしまった事例から学ぶ「縛りだらけのインディーゲーム開発」の世界
知られざる「縛りだらけのインディーゲーム開発」の世界がここにある。 世は大インディーゲーム時代。 『天穂のサクナヒメ』や『NEEDY GIRL OVERDOSE』などのインディーゲームが100万本以上を販売する現代、インディーゲームに注目しているゲーマーは多いことだろう。 【この記事に関連するほかの画像を見る】 そんなインディーゲームについて、多くの人は「職人的な個人、少人数の有志が個性的なゲームを作る、自由なゲーム」というイメージを抱いているのではないだろうか。 実際、漫画『デベロッパーズ~ゲーム創作沼へようこそ~』やドラマ『アトムの童』などでも、インディーゲームを扱う物語は天才的な開発者、やる気と才能ある有志の集まりがゲームを作る姿が描かれている。 それは一面の真実ではある。が、実は表に出づらい縛りだらけのインディゲームの世界もある。 すでにある程度の規模を誇るゲーム会社や、複合企業で制作されるインディーゲームである。その昔、ゲームの販売は体力のあるメーカーが行うもの【※】だったが、ダウンロード販売が主流になった近年は誰もがゲームをリリースできる。 となると、昔は自社販売できなかった会社が「俺たちもゲームを自分で作って出したい!」と動き出すわけだ。 ところが、企業がインディーゲーム開発に乗り出そうとすると個人・少数集団の開発とは異なる問題に直面する。個人開発では「作ろう」と思えばインディーゲームを作り始められるが、会計監査がある企業では「それは利益が出るのですか?」という質問に回答する事業計画書を先に提出しなければならない。 1本のゲームを作るためだけの特別な人材を集めるのではなく、自然と社員から人材を選ぶことにもなる。ゲーム発売時期も「期をまたぐ前に出してね」と、決算の圧力がある……経営面の縛りだ。さらに、開発ノウハウの欠け(請負と開発では必要なノウハウが異なるのだ)、販売ノウハウの不足など、「経験が中途半端にあるのでハマってしまう落とし穴」のようなものもある。 これは多くの人が想像する「自由なインディーゲーム」のイメージからかけ離れていることだろう。日本企業においてこんな話はしばしば聞かれるのだが、監査のある企業ともなれば内部事情を話しづらいし、知見が共有されることはまれで、当然皆さんの前にもその話題は出てこない。結果、「あなたの知らない世界」になってしまうわけだ。 本インタビュー連載「縛りだらけのインディーゲーム開発」では、同じような苦労をしている開発会社に知見を共有すべく、実際のプロジェクトの事例をもとに会社役員としての問題、開発チームの苦労、マーケティングの落とし穴など、4回程度に渡って開発で直面した苦労を赤裸々に語っていく。 あなたの知らない「縛りのなかで自由を目指すインディーゲーム開発」の世界が、ここにある。 本連載で語られるのは、SEモバイル・アンド・オンライン株式会社(SEM&O社)の事例だ。同社はゲーム開発支援(SES)業務・受託開発、そしていくつかの自社運営型やコンソール型のダウンロードゲームを手がけている。だが2023年に新卒中心のチームを作り、新規にSteam向け自社ゲームの開発にチャレンジすることを決定する。 だが、そこには「縛りのあるインディーゲーム開発」ならではの問題が横たわっていた……。 第1回では、同社取締役エンタテイメント事業部長・尾崎耕平氏の赤裸々な苦労話を語っていただく。聞き手はプロジェクトのゲーム制作ヘルプを頼まれ、何の因果かこんな記事まで書くことになったゲームライター(?)岩崎啓眞である。 聞き手・文/岩崎啓眞 編集/久田晴 ■プロジェクトのはじまりは「新卒の教育」 岩崎: まず最初にお聞きしたいのが、この「新卒中心のチームでSteam向け新作ゲームにチャレンジする」というプロジェクトの始まりというのは、どういうものだったのかということです。 尾崎さんの頭の中でこのアイディアが出てきたのはいつごろだったんですか? 尾崎: 去年(2023年)の年が明けてすぐのころ、どういうふうに事業の方向性を伸ばしたらいいのかなと思ったのがきっかけです。 うちの会社の売上構成は自社ゲームサービスとSES【※】で大体半々なのですが、2023年の初頭はSESの市況が活性化してたんです。どちらかというと売り手市場で、スタッフの入場(仕事)もすぐに決まるような具合でした。そもそもの背景として、この4年間ぐらい、SESはそういう状況で続けられていたんですね。 なので「じゃあSESを拡張しよう」となったときに、今までは外部の業務委託のスタッフに協力いただいたり、自分のネットワークにある会社の方からとか、当社の社員以外にも増強してやれていました。 ところが、それ以上に人が足りないっていう状況になってきまして。中途採用も積極的に行っていたのですが、売り手市場だからということもあり、なかなかいい人がいなくて採用が進まなくなってしまったんです。 なので、中途採用と並行して「新卒からちゃんと育てていく」流れもあったほうがいいんじゃないかと。まず、SESの方でそう思ったのが始まりですね。 ※SES:「システムエンジニアリングサービス(System Engineering Service)」の略。多くの場合、契約で定めた期間、クライアントに対してエンジニアの技術力や専門スキルを提供するサービスを指して使われる。具体的にはクライアントがゲーム開発をしようとしているとすると、プログラマ2名、プランナー1名が6か月参加するというような契約をする。 「派遣と何が違うんだ?」と思うかもしれないが、SES契約では貸しているスタッフに対して指揮命令する権利はスタッフが所属している企業にある。そのため、クライアントはSES契約で働いているスタッフに対して直接指揮命令することができず、契約しているSES企業を通じて間接的に要望を伝える形になる(もちろん契約している範囲では指示できる)。 岩崎: ゲーム開発支援の需要が多くて好景気になり、人を増やすほど拡大できる状況が4年も続いたら人材が売り手市場になって確保が難しくなったので、SESの人材増強のひとつの手段として、新卒から育てるのもいいだろうと思ったわけですね。 尾崎: はい。同時に自社ゲームサービスは収益がでているタイトルはあるんですが、やっぱり何年も運営していくと、さすがにいつかは売り上げが落ちていくと考えるのが一般的ですよね。 そういうことを踏まえて、当社のゲーム事業を分散経営の視点で見ると、今後の事業がSES・受託だけに集中するのはリスクがあります。またコンテンツの収益状況によって、SESの待機メンバーを移動できる可能性の高い、自社ゲーム部分の拡張も行うべき課題としてあったわけです。 岩崎: なるほど! SES市場にあまり適していないと思われる社員の仕事がなくなっても、自社ゲームサービスがあれば会社も戦力の有効活用ができるし、社員のキャリアも作りやすくなるという話ですね。 尾崎: それでトライアルとして自社ゲームの拡張機会を増やしていたのですが……そうはいっても、みんな現状のプロダクトでパツンパツンになってしまいリソースが足りない。そこではじめは「海外のライセンスをやろう」という話になり、例えば台湾のコンテンツを取ってきたりとかしていたわけです。 岩崎: はい。ものすごくよくあるパターンですね。僕も中国の開発スタジオのゲームだの、韓国のスタジオのゲームだのを買い付けに行ったことがあります。 尾崎: それが移植費やらMG【※】やらで、およそ数千万ぐらいかかったわけです。ところがやっぱりコンテンツがダメで、運営開始から6ヶ月ぐらいで閉じてしまった。これが閉じた後、ほとんど何も得るものが残らないんですよね。 ※MG:ミニマムギャランティ。ゲームが完成したときに相手に対して払う、最低保証の金額のことをゲーム業界ではMGと呼ぶ。 「何も得るものが残らない」のは、ゲーム内で使用したリソースは契約にもよるが会社のものではない可能性が高く、修正などは開発会社にお願いすることになる。そのためプログラムのノウハウはほとんど積まれないし、運営のノウハウがそう積まれるわけでもない。つまり失敗すると、結局のところ「赤字を出しただけ」ということになってしまう。 岩崎: はい、わかります。 尾崎: そういうわけで、失敗すると何も残らないことをやり続けるのも今後どうなのかなという思いはありました。そこで、さきほどのSES増強のための新人教育というところと、自社ゲームの新しいトライアルっていうところを合わせてしまえばどうかと考えたんですね。 正直、自社ゲームが売れるかどうかは絶対にわからないじゃないですか。売れない可能性のほうが高いわけですよ。だったら、最低でもその自社のスタッフの教育研修という意味が残るっていうわけで、これでやってみようということでプロジェクトを立ち上げたんです。 岩崎: なるほど。つまりSteamに打って出るというよりは、そもそもは新人教育の要素が大きかったわけですね。 尾崎: 昔、モバイルで運営と保守の仕事が増えてSES事業を本格化させる前、プレイステーションなどのコンソールが中心だった時代の開発受託は“マグロ釣り”みたいな仕事でした。チームでひとつひとつ提案を作って、受注した場合は大きな金額が動くというようなイメージですね。 マグロが釣れなければゼロで、釣れたら1~2年は食える……みたいな。そんなスタイルでやってきたんですけど、受託事業をSES事業にシフトしてからは、もうちょっと事業としての仕組み・サイクルで成長できないかなと思ったのもありました。 岩崎: (笑)。まあゲームを作るというのはギャンブルですから、マグロにたとえるのはアリですね。 尾崎: SESのメリットは月々にスタッフが問題なく仕事できていれば、毎月報酬をいただけることです。長期案件が多い場合もあり、そうすると年間である程度の利益と計画が見えるので、年の最初に投資が決定できることも大きいです。 これが大型の受託タイトル案件をチームで動かすことになると、最終的にどのくらいの利益が残るかはギリギリにならないと分からない場合が多いので。たとえ、利益が出たとしてもマグロ釣りということもあり……次年度にその利益を差し引いて目標を作ることはできないので、投資計画は立てづらかったです。 岩崎: わかります。 補足:受託タイトルは、相手が予算を持っていて、その中で期限があって作ることになる。なので、契約によっては完成してすら利益が残るかわからないときがある。ただし契約が1本あたりの印税契約であったり、一定以上売れたらボーナスが入るような形のことが多いので、売れれば大きな利益になる。というわけで、やはりマグロに例えるのはアリなのだ。 尾崎: あらかじめ計算できるのがSESのメリットなので。そういう形で組んだら、持続可能なスパイラルで組織が成長していくんじゃないかという非常に楽観的な計画を立てていました。 岩崎: ああ、つまりSES市場があの時に活況な市場だったということもあって、そのSES側で通用する人を教育するために、新卒を取る。同時に自社側のゲームの売り上げがもちろん永遠に続くわけじゃなく、いつかは落ちるだろうから、そこを埋めるためにも自社ゲーム開発に力を入れて行こうという流れだったわけですね。 尾崎: 乱暴な言い方をすれば、「宝くじを買いながら、最低でも教育研修が残る」という話ですね。 あと、もう一点は新卒の方を定期的に入れていかないと、どんどん組織が老朽化するんですよね。年を取ったスタッフがダメというわけではなくて、それぞれの世代の良いところが適材適所でバランスよく機能し、循環していくべきだ……と思っているんです。 新卒の方とか、新しいスタッフが入ってくると、昔からいるスタッフにとってもカンフル剤になったりするんですよね。今はテレワーク中心になっているのでなかなか難しいんですけど、やっぱりそういう循環もないといけないなと。下手したら、みんなが50~60歳の組織になっちゃうって結構怖いじゃないですか。 岩崎: 確かに、怖いですよね。 尾崎: そういう「全員50歳の組織ってヤバいな」という危機感はありました。まあ、さすがにまだ20~30代の人もいますけど……。こういった思惑がいろいろ重なり合い、今回のプロジェクトに繋がったという経緯があります。 岩崎: 新卒によって組織の循環を狙いつつ、同じ宝くじを引くなら自分達で引いたほうがいいし、それが新卒の教育にもなるだろうという狙いだったわけですね。その行き先がSteamだったのは、やはり参入障壁の低さですか? ※ここではゲーム開発を宝くじにたとえているが、売り切りのゲームは売ったあとのメンテナンスコストは運営型のゲームと比較して低い。だから開発費を賭けた博打か、宝くじのようなものだということになる。 尾崎: 現状の投資コストの状況を鑑みると、サーバーの必要性が薄い、売り切りのダウンロード型のゲームからはじめる方が良いと考えていました。 売り切りであればモバイルアプリやコンシューマ機のダウンロードゲームでもよかったのですが、Steamを最初に選んだのは、今後の成長性をふくめ、Steamはグローバルプラットホームとしてはずせない場所だと考えたからです。 また海外市場に目を向けるイメージが感覚的につきやすく、このプラットホームで開発手法やプロモーション手法といったノウハウを蓄積していきたいという狙いもありました。 ■「自社ゲームを作れる」採用により、新卒の興味を引けた 岩崎: SESをメインに据えた会社が、新卒に自社開発のゲームを作らせようと考えた理由はわかりました。が、その「自社でゲームを作るよ」という方針を打ち出すことにより、実際に新卒採用で良い人を取りやすくなるといったことはあったんですか? 尾崎: それはありましたね。ただ、その時には必ず「自社ゲームにトライするのは、あくまで1年くらい。その後は即戦力でどんどんSESに入ってもらいたい」という話をしていました。基本的には、その自社ゲームをトライアルできる環境・サイクルを気に入って欲しいという話をしたんです。 そうしないと、もし入ってきてくれたのが自社ゲームを作るのが一番楽しい人たちだったら、受託やSESでそれができなくなったらやめてしまいますから。そこをきちんと言わないと嘘つきになるというのは意識していましたね。 なので、あくまで自分たちが成長するために自社ゲームを作り、あわよくば売れるというのが基本方針です。そこで売れたら、続編なり、マッシュアップなりを作っていけば、また新しいチームができますから。 もちろん売れるのが一番の理想形ですが、基本的には売れるかどうかなんてわかんないし、売れない可能性の方が高い。なので売れなかった場合は、そのまま教育を利用してSESに入ってもらうという流れを理解してもらっています。その仕組みが他のゲーム会社と比べて当社の採用の特徴になっているとは感じていますね。 岩崎: あと気になることとして、今回は「インディーゲーム」に参入するというお題目なっているわけで、会社から作るゲームを指定して作らせたわけではないのかな、と思っているんですがそのあたりはどういったコミュニケーションだったんですか? 尾崎: 最終的には「君たちが面白いと思うものを作ってくれ」という話をしていて、企画から新卒を中心としたチームに任せて、あまり口出ししないようにと考えていました。 なので、新人チームたちが作りたいものを作って世に問うている、という形でインディーゲームと言って差し支えないと思います。 岩崎: 新卒の方に「あなたたちに教育も兼ねて実際に売るオリジナルゲームを会社の金で作ってもらいます」と言っている会社は、さすがに見たことないですね。それで尾崎さん的には、自社ゲームを作るという説明をしたのは、採用にはプラスだったんですか? 尾崎: はい、もちろんプラスでした。それはなぜかと言いますと、いわゆるインディーゲームを自分たちのサークルだとか、学校だとかでバンバン作っているような層の人を採用できるようになったからです。 彼らがこれまでやってきたことの延長として仕事を始められるというのが、「仕事ってこういう風にやるんだな」というビジョンを見えやすくしてくれたんだと思っています。実際、彼らはみんなこのやり方についてすごく興味を持ってくれていました。 尾崎: あとたまたまですが、今回のチームは全員、出身がHAL大阪なんですよ。 HAL大阪の風土というのが自由で自己裁量が多く、そのワイワイやるみたいな雰囲気が、そのままうちの風土にも合っていたのかもしれない……と勝手に思っています。 岩崎: 同じ学校でまとまっているから、いい雰囲気で作ってんなぁっていう感じもあったのかもしれませんね。 尾崎: そうですね。一方で若い子の特徴として「チームの和を尊びすぎるかな」っていうのを感じたりもしています。ちょっと気を使いすぎるっていうか、良くも悪くもな部分なんですけど。 まあ、その方が特に揉め事が起きないから会社としてはいい部分が多いのですが……。たまには衝突があってもいいかなと思ったりもしています。これは私の昭和的な考えからかもしれないのですが、もうちょっと怒鳴ったり、言い合ってもいいんじゃないのという(笑)。 岩崎: 確かに。僕もプランナーはもうちょっと突っぱって欲しいって思っちゃいますね(笑)。 尾崎: そんなわけで少し物足りない気もしますが、逆にそれはそれで管理はしやすいです。よく有名ディレクターで非常に尖った人の話を聞くと、その尖り方で最悪会社をへこませてしまう方もいたりするので……。とてもそれを許容できる体力は当社にはないので、あんまり尖られすぎちゃうと困るのは事実ですね。 とにかく、今の新人や若い方たちは面接すると、「和を尊ぶ」人がすごい多いですね。周りとの協調性を自由より重んじるっていう人がすごい多い。すみません、なんかいろいろ話を広げてしまいました。 岩崎: いや、いまはちょうど業界でも採用がすごくホットな話題だからいいと思いますね。 尾崎: あとはなんでしょうね……。自分たちで大きな裁量権をもってまずゲームを作って、そこである程度の実務も経験してからSESに行くっていう流れがなんか気に入ってくれたのかもしれません。大手有名ゲーム会社を蹴って入ってくれた新人プログラマの方はそう仰っていましたね。 岩崎: なんというか、自分たちでオリジナルゲームを作れるというのは、間違いなく会社としては魅力になったということですね。 尾崎: そうですね。そういう話もあって、当社のスタイルは結構売りにはなったとは思っています。そもそも自社ゲームとSES、両方を売上半々でやってる会社が少なかったですし。SESだったらSESだけだし、受託だけやってたら受託だけの会社だったり。 岩崎: そうですよ。ふつうはまあSESか受託か、どちらかですよね。 尾崎: 安定基盤で考えると、当社はSESと自社サービスでそれを補強しますが、大手ゲームメーカーは自社ゲームのタイトル数の確率や他事業との全体で、それを補うという形だと思います。とすると、自社ゲームを作るために一番いいのは大手に入ることになりますが、大手だとやっぱり自由にやるのも難しくなりますからね。 ※大手だろうと小さなメーカーだろうと、新卒がいきなりオリジナルゲーム、それもSteamに出す商品を研修もかねて作れるなんて事例がまずないのは間違いない。 社内コンペで優勝したら新規IPにチャレンジできるシステムなら、自分でも運営したことがあるし、他所のメーカーでも聞いたことがあるが、もちろんそれは疑いもなく狭き門だ。だから、SEM&O社さんのスタイルはとても珍しいといっていいだろう。 ■理想のゲームを作り始めるも、「面白い」と思った要素を詰め込み過ぎて一度はボツに 岩崎: ようやく、会社の中の話から、チームができたときの話になってきました(笑)。 尾崎: ですね(笑)。今回の新卒チームでは当社に中途入社いただいたシニアのデザイナーの方に、デザイナーをやりながら新卒を教育する役目を引き受けてもらうことにしたんです。その方はデザイナーの経験はもちろん、スタッフマネジメントにも実績があるため、面接したときにこの相談をしたら「面白そうだ」と受けてもらえました。 デザイナーとしての作業だけでも少ない人数のなかで大変なんですが、その方に今後も自社ゲームでマネジメントをしてもらうことで、そちらのノウハウも積まれて継続性が産まれるだろうと。 岩崎: これでやっと僕を強引に引き入れた元部下が、どういうタイミングでやってきたのかわかりました(笑)。 尾崎: 新卒のデザイナーを入れなかったのは、やはりデザイナーって社内で請け負う開発受託業務があって、社内に先輩がいて、その横でやれるような環境がないと育たないと思ったからです。トータルのコストの問題もあるんですけど。 岩崎: なるほど。 尾崎: なので、新卒ではデザイナーは取っていませんでした。プランナーとプログラマーに関しては、仕様書を書くくらいのレベルのことは多分できるだろうなと思っていましたので。 あとアイデア面に関しては、「うちのシニアと今の新卒チームのアイデアと大きな違いがあるか」って言ったら、あまり変わらないだろうなというのが正直なところでした。これはうち全体のスキルの話でもあると思うんですけどね。 もちろん当社のシニアのプランナーの方が、現場に即したプロフェッショナルな仕様書を書けると思っています。ただ、あくまで自社サービスであってクライアント企業にご迷惑をかけるリスクがないという前提がありましたから、アイデア面も新卒チームに任せることにしたんです。 岩崎: シニアの方に任せた方がきっちりとした仕様書になるだろうし、確実に作れるものが出てくるのは確かだと思いますが、オリジナルゲームの面白さの担保というと微妙な話になってきますよね。 尾崎: プログラマーに関しても、「先輩プログラマーがいれば良い」という話ではないと思っていて。昔に比べて今は情報がインターネットに溢れているので、自分で調べてやってくれというスタンスで話を始めたんですよ。 岩崎: 新人研修も兼ねるとは言え、技術側のシニアがいないのは、今思うとちょっと怖い構成でしたね。 尾崎: で、ようやくゲームが作れるんじゃないかと思ったところに、大きな落とし穴があったんです……。プロモーションですね。もちろんプロモーションの必要があるのはわかっていたんですが、Steamのプロモーションは、想定していたのとは全然違いまして。 岩崎: それは僕もまさにそうで……。ともかくSteamの事はNeon Noroshi【※】の人が良く知っているから、頼もうというのだけは正しかったですね。それでなんとか体制が整えられたんですから。 ※Neon Noroshiは、スウェーデンのゲームPR会社。Steamのプロモーションについての話は、この連載の予定では3回目で詳しく書く。しかしともかく、コンソールやスマートフォンとはアプローチがまったく違い、無名の会社の場合には「1年単位でのプロモーション計画がないと戦うことが難しい」世界だとわかったということは書いておきたい。そして『グラサバ』では、その期間がなかったので大変苦労することになった。Steamに挑戦しようとするなら1年前からプロモーションの想定が望ましい。 尾崎: それで、デザイナーの方に現場マネージャーもやってもらう形で開発を行う体制をまずは作りました。 ただ、実際のところ今の新卒チームは、最初の3ヶ月では別のアプリを試してみたくて、あるシニアプランナーと一緒に他のアプリを作っていたんですよ。ところが、アプリは形にならなくて。 岩崎: 3ヶ月、無駄に使っちゃったところもあるけど、チームの一体感を醸成するのには役に立ったと言えないこともない、という感じですか。 尾崎: はい。ただ、そのあとも苦労は続いて……。最初は企画をみんなで持ち合って、どれがいいか考えるスクラップアンドビルドで進めていたんですね。で、今のメインプランナーがレコード盤のアイデアを考えてきて。それが「目新しさがある」ということで、全員一致で候補に残ったんです。 岩崎: レコード盤? その話は初耳ですね……。どんな企画だったんですか? 尾崎: レコードの盤面が3つ並んでくるくる回っていて、そのタイミングにあわせて攻撃のタイミングも変わり、ゲームができる……みたいなアイデアでした。 岩崎: あぁ、「音ゲー+攻撃」みたいな感じですか。いや、新しいゲームを作りたい、という気持ちはわかるんですけど……。 尾崎: 厳密には音ゲーではなかったんですが、おおむねそんな感じです。「独自性のあるゲームを作ろう」と考え、スタッフの総意でこの企画でいってみようということになりました。 でも結論から言うと、全然ゲームにならないまま、時間だけが過ぎていってしまいました。こういう事態も想定してはいましたが、やはり難しかったんでしょうね。さすがに新卒ですし、社会経験もまだこれからという中では、厳しかったのではと思います。 岩崎: あえて言わせてもらうと、その案をちゃんとゲームにまとめ上げようとすると、かなりの経験か時間が必要だと思います。僕が最初に会議したときの実力を考えると、彼らだけでそれをまとめきるには、1年はかかっちゃうぐらいのイメージですね……。 尾崎: ただ、チームとしてはそのレコードのゲームが行けそうな気がしていたらしく、何度も作り直しを繰り返していました。そんなこんなでしばらくはこの企画を進めていたんですが、最終的にはまとまりませんでした。開発を中断させるジャッジのタイミングも非常に難しかったです。 補足:インタビューのあと、このゲームの企画書とプロトタイプを見せていただいた。 未発表のゲームなので抽象的な表現になってしまうが、「新しくて面白いゲームを作りたい!」という情熱は伝わってくるし、「これ新しいよ!」と思わせるゲームではあった。しかし、開発陣が面白いと思う要素をとにかく入れてしまっていたため、新人が数か月でまとめるのは無理だと思う内容になっていた。 ただ、そうはいっても、これをやってしまうのがデビュー作だ。僕自身もデビュー作で自分が面白いと思う要素を全部入れてしまい、まとまらずに苦労したのでその気持ちはとてもよくわかる。良い意味で、やる気いっぱいの「俺たちの面白いゲームを作るぜ!」と思っているチームには「あるある」な現象なのだと書いておきたい。 それで、企画をメインのプランナーと一緒に見ながら「基本は面白いんだけど、この要素を入れちゃったのがまとまらなくなった最大の理由だねえ」と、ある要素を指摘してみた。すると「今見ると、どうしてこの要素まで入れようと思ったのかと思います」と返ってきたので、若い奴の進歩はすごいなあと思わされた次第である。 尾崎: それで、また秋から冬にいろいろ企画するんですが、その時には「もうスクラップアンドビルドなんかしてる時間はない」と判断しました。 結局、これは全部リセットするしかない、と私が決めまして。当時チームがいくつか出していた案のなかで、いわゆるゲームシステムとしては大体分かっている「サバイバー系」があったんです。それで「ヴァンサバ【※】のマッシュアップで行こう」と。 岩崎: オリジナルで苦労している新卒のチームを相手に、その提案というのはすごく正しかったと思いますよ。まったくのオリジナルで商品になるゲームをまるまる一本作るというのは、とにかくすごい能力が要るうえ、時間がかかるので。ひとつ間違いが起こると、1年では絶対に作りきれないですからね。 尾崎: そうですよね。難しい判断でしたが、今回はそのように軌道修正しました。サバイバーライクのようなゲームシステムがある程度担保されているジャンルを選ぶことによって、いわゆるスクラップアンドビルドの必要がなくなったわけです。 で、「ベースを持った上でマッシュアップしながら差別化を図っていくゲームにしたらいいのでは?」という話を僕からしていました。 また、その時までに彼らが研究したパーツがありましたから、本当にゼロから作り直しというわけではなく、素早く作ることができたわけです。 岩崎: いわば、ゴミを漁って? 尾崎: そういうイメージです。このジャッジは独自性と引き換えにはなってしまうのですが、今回はこの判断以外になかったですね。月数百万のコストが落ちる中、いつまでもスクラップアンドビルドをやっているわけにはいかなかったので。 そういうわけで、『Rogue Gladius Survivors』(以下、グラサバ)という以前から申請中の商標をそのまま使うことにしました。 岩崎: そうか…タイトル周りはトラブルになることがあるから、「これ商標取れるか確認した方がいいよ」っていったとき、すぐに「進んでいるところです」と言われた理由はそれだったんですね(笑)。 ※補足:上場企業で製品を作りますといった時、製品は当然発売時期を決めなければならないし、現実的な収支目標が示されていなければならないし、もちろん基本的には黒字を前提に目標を組まなければならない。そしてもちろん、最終的には株主に対して損した・得したと報告する義務がある。 ところが新規開発のゲームで、しかも、やったことがないSteamでそんなことを書くのは極めて難しいし、書いても精度は悪い。ゲーム業界は、新規プロジェクトの予算や期間の誤差は1000%とかに及ぶこともざらにある世界だ。 そういう危なっかしい状況で、尾崎さんは新製品の資産としての開発を想定してしまったために、月数百万ずつ開発費が仕掛かりで計上される形になってしまう。つまり、最終的に「本当に売れるのか?」が重要になってくるし、さらに開発費が増えれば、売れなければならない数も増える。 しかも中途半端な本数が売れる目標を出したとすると、上場会社のグループということもあり。それでは監査を通らなくなってしまう。日本の上場企業の中で新規IPを立ち上げる時にぶつかる問題のひとつである。 ■プロジェクトの穴埋めをするためにベテランを投入 岩崎: しかし、そうやってゲームを「サバイバー系」というワクにはめても、実際はゲームが完成に向かわず、私を呼ぶことになったんですよね? 尾崎: サバイバー系に決めたと言っても、基本的には内容は開発チームに任せているわけです。 しかし、会議で話を聞くたびに不安になっていました。 「これが面白い」と言っているが説明に裏付けがないとか、抜け漏れが多くて後から必要なものが出てくるとか、そういったことも多かった。 ゲームがこれではまとまらない、と。 岩崎: 考慮不足が多いのは、経験が不足しているチームにありがちですね。そういう時のためにベテランが1人、チームに必要になることも多いと思います。 尾崎: そして、マネジメント兼デザイナーの方が、現場でいろいろと気になることが出てきたとアラートを挙げてきた。でも、その方もプログラムはわからないんですよね。 それでデザイナーさんから「私の知り合いに若手の研修・指導がかなり得意な方がいるので、今回のプロダクトの研修指導に協力をお願いしたいのですが」と提案していただきまして。 それが誰かと聞いたら「岩崎さん」と出てきて。 尾崎: 岩崎さんは別のプロダクトでご一緒したことがあって頼もしい方という印象だったんですが…呼んで欲しいと言われたとき「うわっ、これは諸刃の剣では?」と一瞬ためらいましたね。 岩崎: ためらいとは、なぜ(笑) 尾崎: 『ゲームの歴史』という本の著者ともめて、あれはデタラメだらけの内容だったのはわかってますけども、本をひとつ潰している。 インフルエンサーとして強力すぎて、トラブルが起きたら困るということが最初に頭をよぎったんですね。 岩崎: 尾崎さんはリスク管理が仕事ですから、立場を考えると当然のためらいとは思います(笑) 尾崎: そんなわけで、守秘義務条項などはきっちり確認して契約してから現場に入っていただきました。と言っても、大変な条件を付けたわけではなく、契約書の内容は弊社の一般的な内容のままでしたが。 それにしても、岩崎さんを呼ぶという発想は僕にはなかった。 岩崎: 僕も呼ばれるなんて全然想像していませんでしたよ。 例のデザイナーさんとは10年ほど前に知り合ったんですが、ずっとFacebookで繋がりがあり。そうしたらある日突然、「岩崎さん、ちょっと仕事受けてもらえませんか」と(笑)。話を聞いたら面白そうだったので、ちゃんとやっている仕事があるからドップリ入るのは無理だけど、ヘルプならいいよという形で参加することになりました。 尾崎: それで岩崎さんに入っていただいてから、実際、うちのスタッフはだいぶ助かったという。 今となってはやはり、僕の見込みが甘かったと思っていますね。逆に言えば、デザイナーの方がスタッフマネジメントとして仕事をしてくれたんだなという。 とはいえ、マネジメントの最終目標は「チームの収益化」なので、まだ課題ではあります。 岩崎: そこはミッションの最も難しいところですね。 尾崎: そうですね。一番難しい課題と思います。ですが、スタッフマネジメントの部分はよくやっていただいていると思っています。だから期待はしているのですが、どうしてもデザイナーと現場の方だけだと、企画とプログラムの部分でなかなか回らなかったんだろうなと。岩崎さんに入っていただけて本当に良かったです。 岩崎: 役にたったかというと、一応、役には立ったと思いますよ(笑)。 デザイナーさんが言ってきたのは、「自分はこういう仕事をしてきたんだけど、どうもそれが違っていろいろやりにくいし、心配になる」という話で、その心配のタネをつぶして欲しいという話だったので。 ■「次のプロジェクト」をやるとしたら?マーケティングとゲームジャンルについて思うこと 岩崎: いろいろ難しいことがいっぱいあったわけですが、それでもなんとか完成が見えてきたわけじゃないですか。それで次をやるとしたら、どういう点を変えていきますか? 尾崎: やるとしたらですよね? 岩崎: はい。 尾崎: まず、23年卒の方を収益化するために別プロジェクトへ移すとした場合、メンバーが減るんですよね。 すると今年の24年新卒の方が2名で、プログラマーしかいない。それに例のデザイナーの方を加えて3人、プラス、例えば岩崎さんコンサルとかでものを作るんじゃないかな……。そういうことをそろそろ考えなきゃいけない時期に来ています。 で、Steam市場で行くのは変えられないと考えると、完成形のグラフィックを先に作ってしまい、早くストアページを開くための動きをしなくてはいけない……というのがひとつ考えているところです。 岩崎: 先ほども少しお話に出ていた、Steamでのプロモーションの関係ですね。 「Steamで宣伝する手法がわからない」とマーケティング会社を呼んだら「声をかけるのが半年遅い」と言われて、コンソールとのルールの違いに驚きましたね。 これは第3回で言及する予定ですが。 尾崎: 「そろそろ見えてきたから、早めに声かけるか」と思ったら、すでに遅い時期だったという。岩崎さんと別の意味で「うわっ」ってなりましたね。プラットフォームが違えばルールが違うのはあたり前ですが、今回で勉強になりました。 あと、もうひとつ次回チャレンジしたいのが、低価格のインディーゲームでもいろいろ目立っている作品ってあるじゃないですか。200~300円くらいのゲームでも、アイデアで攻めている作品ってたくさんあって。その中からサンプルを調べて、どういう傾向が面白そうかというのを見定め、新しい変わったジャンルをやってみたいと考えています。 ちょっと迷っている部分もあるんですけどね、やはり新しいことをやるにはリスクがともなうので。今回の『グラサバ』をマッシュアップしていくことも検討しています。 ただ、何か変わったことをやらないとメディアやショーに選ばれづらいというのも正直なところ感じていまして。そのあたりをスタッフと考えながらやっていけたらいいなと思っています。あと、プロモーションは絶対に並列で考えていこうと。本当は人数をもっと増やしたいんですが、結局のところ収支シミュレーションで本数が上げられない限り、そんなに人数は増やせないので。 今回の反省を踏まえて、次は製品化が本当に見えない限り償却対象にしないと考えています。すると発売時期と本数を決めなくてもよくなるので、人数は少ないながらもじっくり作っていけるんじゃないかなと思いますね。製品化が見えるまでは研究開発費で落として進めていく予定です。これ自体が新人の研修にもなりますし。 岩崎: 「少人数のチームでどういうゲームを作ればいいんですか?」っていう話をされたときは、シンプルにローグライクを作れって言いますね。要は自動生成が組み込まれている作品を作ると、リソース面でリッチに戦わなくて済みますから。しかも、あのゲームスタイルは面白いゲームが作れるので。 尾崎: そうですね、それもひとつのやり方ですよね。 岩崎: ただし、注意することもありまして。ローグライクってよその数値を持ってこない限り、ベテランの人がちゃんと数字を作れないとすごいつまんないものができてしまうことが多いんです。 尾崎: ああ、バランスの部分ですね。 岩崎: それで、確かにリソースの割に長いプレイ時間のゲームを作れるんですけど、ちゃんとローグライクを楽しませる形に持ってくるのは、新卒メンバーだけだと厳しいと思います。ちゃんとした企画のベテランががいないと。 尾崎: 今回のゲームはプランナーがいますが、次のゲームはいないですからね……。 岩崎: ローグライトが売れ線だからやろうといって、それで失敗しているチームは僕が知る限りでも結構あります。 Steamでローグライトの平均売上は高いんだけど、リリース本数は実はそこまで多くないんです。平均売上が高い割に多くないっていうのは、高品質で作ることが難しいから、結局のところ皆さん簡単には発売できないっていうことなんです。 尾崎: なるほど……。『Baba is You』【※】みたいなやつはどうなんですか? 岩崎: いや、あれは難しいですよ……。なんせ、ひとりで2年ぐらいかけて作っている作品ですから。 尾崎: ノベルゲームとかはプログラマの実績が弱くなるのと、リソース依存なのでコストがかかりますよね。 岩崎: ビジュアルノベルと言っても、『コーヒートーク』【※】みたいな形だとある程度リソースが少なくても頑張れる印象がありますね。 尾崎: どちらにせよ、シナリオにセンスがないとダメですよね。 あと、Switchの意識とか、ここ最近のSES市場の影響も考えたりと、いろいろあるんですよね。 岩崎: ああ、ゲーム業界は去年秋からいろいろ縮小気味で、特に受託とSESは大変じゃないかなと……。 尾崎: そうですね。これからSES市場はしばらく縮小傾向に向かうと想定しています。 岩崎: しばらくはそうなっちゃうんじゃないのかなって感じですね。また流れが変わるタイミングはあるのかもしれませんが……。そんな今だからこそ、先に自社開発に手を出してるのは大きいんじゃないのかなって思います。 尾崎: そうですね。人材を活用できる場が、今のSESとか開発受託、あと大手がやるようなAAAタイトル以外に、何かやっぱり勝つところを見出したいよねっていう、切実な思いでいます。だからSteamのダウンロード販売も、Switchのダウンロード販売もそうですけど、なんかもうちょっとこう「自由にやれる環境が欲しいな」というふうに思いますよね。 岩崎: わかりすぎるぐらいわかります。 岩崎: でも、結局の今の日本における最適化っていうのは「SteamとNintendo Switchの両方に出す」なんですよね、明らかに。 尾崎: そうですね。 岩崎: 任天堂の次世代機と言われてるやつもありますが、さすがの任天堂も今回は互換を取るんじゃないでしょうか。 ……というか、とらざるを得ないと思っているんですよ。あのエコシステムを生きながらさせるために。 だからその選択を考えると、やっぱり「Steam&Switch」というのがまあしばらくは最適化になるだろうなと。 尾崎: 今回のゲームもSwitchに移植したいのですけどね。 岩崎: 楽に進めるためには経験者が必要だと思いますが、できると思いますよ。 尾崎: なるほど、どうしようかな……。今の若手がすぐ次のプロジェクトに全員移れるかは分かりませんし、その間に可能な限りで移植版を作っていくみたいな形が良いかもしれませんね。せっかく作ったから、じゃあ今のやつをさらにマッシュアップしようとか、あるいはちょっと違う題材に変えて作っちゃおうかとか、色々考えなきゃいけないんですけど。 いずれにせよ、9月には新プロジェクトをスタートさせる必要がありますので、ぜひまたその時には、岩崎さんにもご協力いただきたく思います。 岩崎: はい、わかりました。 こうして、SESの好景気による人材獲得の高難度化に対応するための新人獲得・育成から始まった『Rogue Gladius Survivors』の開発は進んでいった。 落とし穴にはまりまくったが、ゲームをスムーズに作れるマネジメントの経験、技術フォローが必要なこともわかり、会社の会計上の計上の仕方も見えてきた。 実際、ようやく Steam ストアページの公開にこぎつけたし、今後は「有望な新人を獲得し、育てるためにゲーム開発を行う」体勢が整い、次回以降の開発はより良い体制でいけるだろう……という見通しが立つところに来て来期の計画も進んでいる。 ところが、この話はこれで終わらない。 ハマった落とし穴はこれだけではなかったのだ。開発チームの現場ではまた別の苦労、落とし穴が山ほどあったのである。チームにベテラン開発者として割り当てられた私、岩崎は新卒の若者だらけの職場で唖然とする。 岩崎「シューティングゲームってやったことある?」 メンバー「スプラとかFPSですか?」 1980年代、2Dシューティングゲームはゲームの花形で、誰もが遊んでいるジャンルだった。しかし、現代においてはその位置はFPSや3Dアクションなどにとってかわられている。 結果、開発チームのメンバーは2Dシューティングを遊んできた経験がなく、古典的な2Dゲームを遊んできたなら知っていて当然の知識を知らない。で、『ヴァンパイアサバイバー』というのは平面的な古典2Dゲームに近いので、その知識がないのはハンデなのだ。 そして、初めて遊んだゲームを聞いてみると……。 メンバー「ゲームボーイのポケモン赤・緑あたりですね」 岩崎「なるほど、モノクロのあれね。僕とゲーム体験に20年ぐらいはギャップがあるわけか」 メンバー「はい、アドバンスからゲームを遊び始めました」 岩崎「それ、ファイアレッドとリーフグリーンじゃん!」 そう、私、岩崎と彼らの間にはゲームの原点に30年以上のギャップがあり、ゲームを改善する前に、コミュニケーション、ジェネレーションギャップから埋めなくてはならない……そんな、予想外のスタートからチャレンジが始まったのであった。 次回へ続く……
電ファミニコゲーマー:
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