Chill CARS|節度のあるデザインをまとう、クラシカルなセダン。
工業製品であるクルマは、新型に切り替わるたび進化を遂げていく。1972年に初代が登場した〈BMW〉の高級セダン《5シリーズ》は、2023年デビューの現行型で8代目を数える。 【フォトギャラリーを見る】 その間に安全性能・環境性能・快適性は著しく向上した。一方で、車体は全長約30cm、全幅は約20cmも拡大されており、街中では少々持て余すほどの大きさになった。 デザインも大きく変わった。現行型は流麗でスポーツカーのようなフォルムだが、初代の面影を強く残す取材車の2代目では、水平に近いボンネットとトランク、角度の立ったピラーによって、いかにも3BOXセダンらしいサイドビューが構成されている。黒いサイドモール、窓、そしてバンパーも、水平基調で線が引かれている。フロントでは、4連の丸いヘッドライトと尖ったノーズが、クラシカルな印象だ。 節度を感じるのは、これらの要素において、奇を衒うデザインがされていないからだろう。街乗りでも苦のない適度なボディサイズだが、室内空間は十分。珠玉と称された直列6気筒エンジンからは、80年代のドイツ車らしい野太い排気音を響かせる。いずれも進化の名のもと、現代では失われてしまったものだ。 クルマには進化が必要である。しかし、時には立ち止まって、クルマには何が必要なのか、と立ち返ることも重要ではなかろうか。2代目《5シリーズ》を見ると、それを強く考えさせられる。
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photo_Futoshi Osako text_Izuru Endo illustration_Daijiro Ohar...