<バイデンの対中関税は悪手>保護主義で米国の産業力は弱く、中国は強くなる懸念
フィナンシャル・タイムズ紙コラムニストのエドワード・ルースが、5月14日に発表されたバイデンの対中関税につき、5月15日付け同紙の論説‘America is pulling up the drawbridge’で、米国は国際貿易秩序に背を向けようしようとしている、米国は戦後自らが築いた経済ルールの維持に疲れ果てている、と述べている。主要点は次の通り。 【画像】 <バイデンの対中関税は悪手>保護主義で米国の産業力は弱く、中国は強くなる懸念 米国は、どちらの政党がより早く脱グローバル化できるかを競争している。5月14日、バイデンは、中国からの電気自動車(EV)への関税を100%に引き上げるなど一部中国製品に対する関税を引き上げた。 それに対しトランプは、自分は中国車への関税を200%に上げ、さらに全ての輸入品に10%の関税を課すと述べた。米中デカップリング(経済的分離)は11月までに超党派の政策になる。選挙の選択は、秩序ある離反をするバイデンか、無秩序の関税引き上げをやるトランプかだ。 もしバイデンの貿易戦争が11月のトランプ敗北に役立つなら、後から見れば彼の判断は好意的に評価されるだろう。しかし、バイデンの決定が選挙に影響を与えるかどうかは分からない。 先行きは不穏だ。速度は異なるものの、共和党も民主党も共に脱グローバル化を支持する。 バイデンの保護主義は、「数千の組合労働者の仕事」を生み出すだろうが、安価な鉄鋼やアルミニウムを材料にする何百万もの仕事は犠牲になる。中国が報復すれば、コストは一層増える。関税のコストは消費者が負担する。 バイデンは、中国の太陽光パネル、電池、EVも標的にする。それはバイデンの気候変動政策にも打撃を与える。米国内のEV、太陽光パネル等の価格は上昇し、米国のエネルギー転換を遅らせることになろう。
バイデンは、中国が米国のルールを遵守するために取るべき措置のリストを示さなかった。そもそもルールがないからだ。歴代の米政権が世界貿易機関(WTO)の運営を無力化してきたため、不公平な中国の補助金を判断することができなかったからだ。バイデン自身もインフレ抑制法により米国のグリーンエネルギーに補助金を出している。 米国の保護主義のもう一つの動機は、国家安全保障だ。それは「小さな庭、高い柵」と呼ばれる。 これにより汎用半導体や関連装置の対中輸出は禁止されている。これが中国の軍備拡張を遅らせるか、それとも中国が高付加価値産業への転換を加速させるかは、分からない。ただ、潜在的な敵への軍事技術販売には理屈がないとするバイデンは正しい。 米国は、戦後に自らが作ったルールの維持に疲れ果てている。核兵器は恐らく世界大戦の再発を防ぐだろう。 今日の最大の脅威は、地球温暖化だ。5月14日のバイデンの措置は、米国のエネルギー転換を遅らせ、米国を中国とのゼロサム競争に向かわせる。唯一説得的な理由は、選挙を有利にするということだけだ。 * * *