日本柔道がフランスで結果を出す意義
◾️気がかり
ただ、スポーツデータの分析や提供を行う米国の専門会社、グレースノートによる事前予想では意外にも、日本の個人の金メダルは男子の阿部のみだった。メディアは五輪前にこぞって取り上げる同社のデータ。さすがに、無観客開催とはいえ地の利のあった東京大会に匹敵するメダル数とまではいかないかもしれないが、やや気になる分析ではある。 心配なアクシデントもあった。1984年ロサンゼルス五輪男子無差別級覇者でJOCの山下泰裕会長が昨年10月に転倒し、頸椎を損傷。手術を受けて入院した。203連勝のまま現役引退をした後は全日本柔道連盟会長を務め、2019年からはJOC会長と、「日本スポーツ界の顔」といった役回りを果たしてきた。今も療養中で公務に復帰しておらず、パリ五輪に出席できない。大御所に吉報を届けるためにも、選手たちの奮闘が期待される。
◾️特別なお国柄
今回の五輪開催地がパリということも特別な意味を持つ。フランスはかなり競技熱が高いとされ、人気も相当なもの。試合会場は地元選手への声援に包まれることは容易に想像できる。その点で関心を集めそうなのが、柔道最終日の8月3日に行われる男女混合の団体戦。初採用された前回の東京五輪で、日本は決勝でフランスに敗れて2位に甘んじた。競技発祥国としては屈辱とも言える結果。今回、フランスと再び相まみえれば、アウェー感満載の状況での闘いが必至で、リベンジへの道は簡単ではなさそうだ。ちなみにグレースノートは日本の優勝を予想している。 最強の象徴とされる男子最重量級の争いも熱い。男子100キロ超級には五輪2度制覇をはじめ、長く王者の名をほしいままにしている地元フランスのテディ・リネールが立ちはだかる。日本の代表は22歳の斉藤立(JESグループ)。男子95キロ超級で五輪2連覇を果たした故・斉藤仁さんの息子で、金メダリストのDNAを受け継ぐ。春先のグランドスラム・アンタルヤ大会では決勝で激突し、斉藤立は35歳のリネールに惜しくも敗れた。それでもポジティブに受け止めた。「負けた試合で自信がついたのは初めて」。若さも味方に付けて頂点に立つとすれば、新時代の幕開けとして国内外に与えるインパクトは計り知れない。 2000年シドニー五輪の男子100キロ超級決勝で篠原信一が〝世紀の誤審〟で敗れて銀メダルに終わった試合の相手、ダビド・ドイエはフランスの選手だった。何かと日本との因縁を感じさせるお国柄だ。競技人口の減少に悩む日本柔道界。子どもたちへの普及の起爆剤になる可能性という観点からも、日本代表が「花の都」で大きな闘いを迎える。
VictorySportsNews編集部