映画『パスト ライブス/再会』切なさが止まらない! 初恋相手との再会の行方は――
【Culture Navi】CINEMA:今月の注目映画情報をお届け!
Navigator ●折田千鶴子さん 映画ライター そろそろベランダ飲み&食べが気持ちよい季節。昨年購入したオレンジ色のサンシェードの出番です。
『パスト ライブス/再会』
▶切なさが止まらない! 初恋相手との再会の行方は―― 子ども時代に“ずっと一緒にいたい”と思い合った初恋相手と不可抗力で別れ、大人になって再会したら? もちろん互いにいくつか恋もしたし、考え方だって変わりもした。でも心のどこかに引っかかっていた、ずっと会いたかった人――。設定だけ聞けば“それ、知ってるかも”と既視感を覚えるし、目新しさはない。けれど、こんな複雑で切ない感慨にふけるなんて新鮮! 非常にパーソナルな物語ながら、派手な大作にはさまれて今年の賞レースを席巻(米アカデミー賞作品賞・脚本賞ノミネートほか)した本作は、誰しもに各々の“感極まる瞬間”をもたらすだろう。 ソウルで生まれ育った泣き虫少女ナヨンと、クラスメイトの少年ヘソン。2人はいつも一緒に過ごしてきたが、ナヨンの家族がトロントに移住することになり、12歳で離れ離れに。ナヨン改め英語名ノラは、やがて家族とも離れてNYに移住、劇作家として活躍。一方、大学を卒業し兵役も終え、就職したヘソンは彼女を忘れられず、遂にフェイスブックで探し当てる。ソウルとNYで12年ぶり、ビデオチャットで言葉を交わした2人は、瞬く間に意気投合。 移民として肩ひじ張って頑張ってきたノラも、力が抜ける居心地のよさを感じる。とはいえ物理的な距離+αがリアルに会うことを妨げ、2人の思いはそれぞれの日常に埋没されてゆく。それから12年、2人は36歳。ノラは作家アーサーと結婚7年目を迎え、ヘソンは恋人と別れたばかり。ヘソンはノラが既婚者と知りながら、遂にNYに会いに行くが――。 激情がほとばしるようなこともなく、それぞれの人生を自分なりにもがきながら歩んでいる姿が淡々と描かれる。それゆえ特にノラが“なんとなく流されて生きている”と感じる人もいるかもしれない。でも、それもまた等身大でリアル。移民として異国で生きる現実は、人生の選択に無関係ではないだろうし、見た目より葛藤も奮闘もずっと激しいだろう。もちろん夫のことも愛している。けれど自分の過去やアイデンティティと密接に結びついたヘソンの存在と居心地のよさも、できれば大切にしたい。果たしてノラの選択は――。 あれも欲しい、これも欲しいと無邪気にねだれる子どもだったら。情熱に身をゆだねて突っ走れる若者だったら。あるいは打算で動くことに何のためらいも感じずに、汚れちまった悲しみを丸めて捨てられたら。あぁ、大人になるってこんなにも切ないことなのか。観終えてしばし呆けたように考え込んでしまう。けれど同時に、“でも大人になるって悪くないな”とも思わされる。ノラが何度も口にする“イニョン(縁)”という響きも脳裏にこだまする。 何の変哲もないようで、会話の妙も場面構成も実に秀逸。私自身、評判ほどではないな、なんて思っていたら、いきなり……。誰かと“どこで感極まりポイント”がきたか、話したくなるはず。その際も、思わず思い出し泣きしないよう、ご注意を。監督は、自身の体験を元にした本作が長編初監督となるセリーヌ・ソン。 ・全国で公開中 ・公式サイト あり