ユーモラスな紳士をヒューが好演『マダム・フローレンス!夢見るふたり』
世界一オンチなソプラノ歌手、フローレンス・フォスター・ジェンキンス(1868-1944)をご存じだろうか? 1944年10月25日、音楽の殿堂、ニューヨークのカーネギーホールで行われた奇跡とも、伝説ともいわれるリサイタルは今なお語り継がれている。チケットは即座に完売し、ホールに入りきれない観客が詰めかけたという。 映画『マダム・フローレンス! 夢見るふたり』は、ジェンキンスの起こした奇跡の実話をコミカルに、そして感動的に描いている。ジェンキンスを演じるのは、アカデミー賞俳優で、歌唱力にも定評のあるメリル・ストリープ(67)。音程もリズムも外れた下手な歌だけど、どこか温かみを感じさせる歌声を忠実に再現し、話題となっている。自分がオンチであることに全く気付いていないお気楽で前向きなセレブの天然っぷりを見事に表現。どこか憂いを秘めた表情が愛らしく、思わず「応援してあげなくちゃ」と思わされてしまう。
映画に返り咲いたヒュー・グラントの新境地
そんな愛すべきジェンキンスのマネージャーであり夫のシンクレア・ベイフィールドをヒュー・グラント(56)が演じている。大きい作品の出演は久しぶりで、同作で演じるシンクレアは今までの彼のイメージを形成してきたゲイ、王子様、ダメ男のどれにもカテゴライズされない役どころで、ユーモラスで気品あふれるニューヨークの英国人を好演している。おそらくこの役はヒューでなければ務まらない。 近年「ロマコメを演じるには歳をとりすぎた」と言い、映画出演のオファーの多くを断ってきたり、「報道の透明性」を訴えるキャンペーンに参加したりなど、本格的な俳優活動はしばらくご無沙汰だったヒュー。この作品に出演しようと決めた理由は、「脚本がすばらしくて、純粋に面白かった。メリル・ストリープとの出演はすでに決まっていたので、すっかりやる気になってしまったから」だと語る。 映画出演は久しぶりでも、さすが余裕のある演技を見せているかに思われたが、実は名優・メリルとの初共演に「震え上がるほど恐ろしかった」とコメントしている。また、賞レースに出品するような作品だったので、フリアーズ監督に対しても怯えていたし、メリルの準備を待つ間、1年分くらい練習して臨んだ作品だったという。それゆえに、次期オスカーの呼び声も高い仕上がりとなっている。これをきっかけに「面白くて、ステキな英国紳士」、こんなヒューがこれからも会えたらいいと思う。