世界最大のフードデリバリー市場、中国で配達員が崩壊の瀬戸際 「本当に切迫している」
給与の減少
こうした背景にもかかわらず、配達員の給与は減少している。中国新雇用研究センターによると、18年に1000ドル以上だった平均月収は、23年には950ドルを下回る。 問題は収入の減少に反して、多くの人の労働時間が長くなっていることだ。20歳の配達員は1日10時間の勤務で30件の配達をしていると話す。収入は1勤務あたり約30~40ドル。950ドルの平均給与を稼ぐためにはほぼ毎日働かなければならない。 フランスの投資銀行ナティクシスのエコノミストは、食品は必需品であるにもかかわらず、景気が低迷すると利用者はデリバリー注文に費やす金額を減らし、飲食店は客を引き付けるために値下げせざるを得なくなるとの見方を示す。 配達員の収入は通常、注文金額に基づく手数料に結びついているため、配達員の収入も減る。利用者に金銭的余裕がなければ、チップをもらえる可能性も低くなる。 一方、景気低迷により求人は減少し、競争が激化している。中国の若者の失業率は8月、18.8%に急上昇し、昨年当局が学生を算出対象から除外する手法に変更して以降、最高となった。
複占
香港に拠点を置くNGO「中国労工通信」の調査によると、デリバリーアプリは当初、拡大に向け多くの配達員を確保するため、より高い賃金を提示していた。 しかし、こうした企業が市場を独占し、アルゴリズムの開発が労働工程をコントロールするなど状況が変化するにつれて、配達員は労働保護がほとんどなく、一定の自由を失ったという。 企業は競合他社を追い出すべく価格を引き下げるため、多額の投資を行った。しかし支配的立場を実現した今、ボーナスや給与を削減することでコスト負担を配達員に転嫁し始めている。 国営オンラインメディアは、飲食店が時間通りに料理を準備できなかったため受け取らないと伝えていたにもかかわらず、調理済みの料理を受け取らなかったとして12ドルの罰金を科された配達員について報じた。 香港理工大学のチャン氏は、配達員が月給ではなく、配達ごとに報酬をもらうフリーランサーとして扱われていることも問題だと指摘する。このことが危険な道路状況を無視してできるだけ多くの配達をこなす動機になっているという。 この結果は致命的だ。国営メディア環球時報によると、北京では19年に強風で倒れた木にぶつかり、配達員が死亡した。 今月9日には、中国南部・湖南省の交差点で信号を無視した配達員のスクーターが車に突っ込む映像が報じられた。