『モンスター』趣里と古田新太が白熱の法廷バトル “杉浦”ジェシーが添える人間味
粒来(古田新太)にあって亮子(趣里)にないもの
事実には鏡の両面がある。無気力なマサルの姿は医療に絶望したからではなく認知症の影響によるもので、マサルが見出したのは医療に対する希望だった。騙されているかもしれないと気づいてなお、事業家として未来の可能性に賭けた。そこには娘への愛情もあふれていた。亮子から見て父の粒来は一枚も二枚も上手だった。訴えた側が訴訟を取り下げたので言ってみれば完敗である。粒来にあって亮子になかったのは想像力ではなかったか。単に言葉の裏を読む以上に、秘められた本当の思いを知ること。同じ言葉や数字を見て、そこから何をくみ取るかはその人次第だ。粒来は死んだマサルの真意を正確に読み取って代弁した。 裁判は幼い亮子が対戦したオセロのように粒来にひっくり返されてしまったが、誤解を恐れずに言うなら、亮子にとってうれしい邂逅だったと思われる。粒来が夜遅くに事務所を訪ねてきたのは、結末を見越して亮子に訴訟を取り下げる意思があるかを確認しに来たとも考えられる。自分から言い出すことはしないが、決して娘を傷つけるつもりはない。法廷ではプロフェッショナルとしてフェアに戦い、相手のプライドも尊重する。亮子にとっては久々に触れた親子の情愛だったはず。泣きたくなるのもわかる。 亮子が笑うタイミングは独特である。杉浦に対しては、つい馬鹿にしているような態度を取っているように見えなくもない。理詰めで考えて機微にうとい亮子と、リアクションが正直で感情の忙しい杉浦は対照的だ。亮子からすれば、ちょっとしたことで驚いたり、相手の言うことを真に受けてしまう杉浦は自分と違う心の動きを持つ生き物として単純に面白いのだろう。けれども亮子は訴えを取り下げ、梶田を信じた杉浦の直感が正しかったように、“凡人”杉浦の感性は亮子の欠落を補ってプラスに作用しうる。その可能性を感じさせる第6話だった。
石河コウヘイ