ウエストランド井口「若い人に覇気がない」2024年9月を振り返る「今月のお笑い」
ウエストランド井口と構成作家・飯塚大悟が毎月のお笑い界の出来事を勝手に振り返る連載「今月のお笑い」。予想のつかない「キングオブコント」決勝、「ジョンソン」終了などが発表された秋改編、過激な企画が話題の配信番組「KILLAH KUTS」といった話題から井口の不満の種まで、今月もたっぷりトーク。古いと思われがちな「おじさんの根性論」が実は今、求められている? 【ポスト】楽屋バリの前で告知する井口。(他6件) 構成 / 狩野有理 ヘッダーイラスト / 清野とおる ※取材は9月26日に実施。 ■ 「キングオブコント」決勝進出者発表 ──「キングオブコント」のファイナリストが発表されました。 井口 飯塚さんは準決勝観たんですか? 飯塚 会場で全部観たけど、本当に今年の決勝はどうなるかわからない。毎年「わからない」って言ってるけど(笑)。会場の自分の座っていた位置からはcacaoとダンビラムーチョが特にウケていた印象ではあるけど、基本的にはみんなめちゃくちゃウケてるから、もうあとはその日の出来と審査員の好みだと思う。ラブレターズが今年も決勝行ったね。 井口 常連組、連続出場の組が多いですね。ラブレターズが5回、ニッポンの社長は5年連続って、すごいことですよ。や団は3年、ファイヤーサンダー、隣人は2年連続。 飯塚 初はcacaoとダンビラムーチョと……。 井口 あとシティホテル3号室の3組だけです。 ──井口さん的には誰を応援したいですか? 井口 いやー、万が一シティホテル3号室が優勝したらとんでもないですね。タイタンから「キングオブコント」の決勝に行くことすら考えられなかったことではあるので。タイタンの規模で「M-1」と「キングオブコント」の優勝者が出たらすごいですよ。シティホテルはここ最近の「タイタンライブ」でもめっちゃくちゃウケていて。「タイタンライブ」に来る大人のお客さんに、ましてやそこまでよく知られていない状態でウケるってけっこう難しくて。どんな事務所ライブなんだって話ですけど(笑)。そういう場所で着実に力をつけてきたっていうのはありますね。まあ、とにかく圧倒的に地味なので、ネタでウケるしかないです。 飯塚 シティホテルは本当にネタが面白いだけというか、「実力で勝ち取った」という感じがする。申し訳ないけど、テレビ的な話題性はないじゃん。人気とかも……。 井口 いいですよ、実際ファンなんか1人もいないんですから!(笑) こんな地味な奴らなのに、準決勝の直前はけっこういろんな芸人から「シティホテルがいいらしい」と聞きました。関西にまで噂が届いていたみたいですし。「アメトーークCLUB」の「賞レース予想ダービー」でも、僕も言おうと思ってたけど、その前にみんながシティホテルの名前を挙げていて、それくらい言われるってなかなかないじゃないですか。しかもライブシーンのメインストリームにいるわけでもないのに。 ──ウエストランドの「M-1」優勝がタイタンに刺激をもたらしてる部分もありますよね。 井口 だいたいそうなんですよね。意外とみんな「優勝目指すぞ」と言いつつも、優勝者が身近にいるかどうかで本当に意識が変わってくる。ソニー(SMA)もバイきんぐさんが優勝してからほかのメンバーも決勝に行きだして、ザコシさんも優勝しているわけですから。K-PROの若手もそうですけど、「行けるんだ」って潜在的に思えているかどうかはあるかもしれないです。 飯塚 ファイナリスト10組に関してはウケていたとしか言うことはないけど、準決勝で敗退しちゃったけど面白かった人の話をすると、しずるがめちゃくちゃ面白くて。めっちゃふざけてる感じが個人的にもすごい好きだったし、ファイナリストに入っていてもおかしくないと思った。あと、蛙亭はほかの人とは違う次元で戦っている感じがした。設定とかキャラクターもいいけど、ものすごいディテールでの戦い。それは今年だけじゃなくて、去年もすごかったし、ずっと面白いことしているなって思う。 ■ 恋愛ネタに手を出すな! 飯塚 「キングオブコント」つながりで言うと、去年のファイナリストのゼンモンキーが解散。井口くんが前回の「キングオブコント」後にイジってた(※)。 ※編集部注:「キングオブコント2023」でゼンモンキーが披露したネタの中の、荻野が足をバタバタさせる場面を井口はさまざまなライブで再現してイジっていた。「2023年10月のお笑い」参照。 飯塚 もったいないって思う人も多いかもしれないけど、本人たちはとっくにいろいろ考えて、それでも解散がいいって思ったわけだからしょうがない。でも20代で賞レースの決勝を経験していて、ここからまだ組み直せるっていうのは全然いいなって思う。 井口 今芸人を始めてもいいくらいの年齢ですもんね。それが1回決勝行ってる状態っていうのはかなりアドバンテージだと思います。でもやっぱり、今回の「キングオブコント」を見て(※)さすらいラビーにも言ったんですけど、ライブって、ちょっと恋愛が好きすぎる気がして。 ※編集部注:井口は「キングオブコント」準決勝の配信でさすらいラビーのネタのみ見たとのこと。 ──ライブのお客さんに恋愛ネタがウケやすい? 井口 そうですそうです。それで結局、普段とは違う舞台でやって恥かいちゃうわけじゃないですか。もちろんやる本人が悪いんですけど。 飯塚 恋愛ネタって、おじさんは特にそうかもしれないけど、「このネタ、若い女の子にめっちゃウケるんだろうな」と思ったときに一歩引いちゃうところはあるかもね。 井口 恋愛コントでうまくいった人なんか1人もいないんで。劇薬というか、その場はウケていいかもしれないですけど、先がないので手を出しちゃダメなんですよ。 ■ ジョンソンともしげ 飯塚 TBSの改編で「ジョンソン」終了が正式に決まったけど、どう? ともしげさんの様子は。 井口 ともしげさんは、まずいですね。「ジョンソン」が始まったときの景気のよさがないです。南原清隆さんに奢ろうとしたあの景気のよさが。 飯塚 それなんだっけ? 井口 出川さんの還暦イベントのV撮りか何かのときに、南原さん、パーパーあいなぷぅ、かが屋と、マセキの若手10人くらいとともしげさんでご飯に行くことになって、いろいろ食べて飲んで「そろそろ帰るか」となったときにともしげさんがまさかの「あ、ここ俺出すんで」と言った、という話です。「ジョンソンあるんで」って。30年以上のトップランナーの人に昨日今日の奴が奢ろうとしたという(笑)。その飲み会中も常に「ジョンソン、ジョンソン」。「ジョンソン見たか、どこがよかったか」ってずっと言っていたらしいです。あの頃はよかったんですけどね。 飯塚 芸名、「ジョンソンともしげ」にしたほうがいいんじゃない? 井口 確かに! それいいかもしれないですね。言ってましたよ。「ジョンソンが俺をおかしくした」って。まあ、とにかくこうなったからには今後のともしげさんに注目ですね。 飯塚 ずっと言っててほしいね、「ジョンソン」の話。 井口 そうしてほしいんですけど、そんなうまいこと動かないからなあ。それが嫌なんですよ。 飯塚 期待していると、(ジョンソンの話)やめちゃうか。 井口 やめちゃうんですよ。どうせならずっと言っててほしいのに。 ──ともしげさんは目に見えてしょんぼりしているんですか? 井口 そうですね。MOROHAさんがやっている芸人とのツーマンライブツアーに僕らも呼んでもらって、僕らの前がモグライダーだったからどんな感じなんだろう?と思って検索したんですよ。「MOROHA モグライダー」で。そしたら「ともしげさんが元気がなかった」という投稿を見つけて、そんなわけないだろうと思って本人に聞いたら、「それジョンソンが終わるのわかった日だから元気なかったんだよ」って。お客さんに伝わるほど元気なくしたらダメだろ!(笑)。それくらい元気はないみたいです。「大悟の芸人領収書」(日本テレビ)でも変な感じになっちゃって落ち込んでました。とろサーモンの久保田さんと一緒だったみたいで、収録のあと久保田さんの家に行って酒2瓶飲み干したって言ってました。 飯塚 「ジョンソン」も期待されて始まったけど、終わるときはあっさり終わる。こういうのはテレビの常だよね。「ジョンソン」のあとに中居さん、ヒロミさん、東野さんの「THE MC3」が始まって、「オドオド×ハラハラ」(フジテレビ)のあとに東野さんMCの「この世界は1ダフル」が始まる。テレビ界の流れの話だけど、ちょっと前まではコア視聴率(13歳~49歳頃までの若い視聴者層)を取るのがいいとされていて、お笑い番組や若いMCの番組が増えていたんだけど、今また「それだけじゃダメなんだ」という流れが戻ってきていて、ベテランの起用が増えてる。 井口 僕も地方に行って道を歩いていると、おじいさんとかおばあさんに声をかけられるんですよ。テレビを観ている人たちってこういう人たちなんだろうなと思って。まあ、その人たちだとしても僕を何で観たのかわからないですけど。中学生とかには全然声かけられないので、年齢の高い人たちが今もテレビを観ているんだなと、地方に行くと改めて感じます。 飯塚 2極化しているよね。ゴールデンは幅広い視聴者に見てもらうためにベテランMCを起用して、けっこう内容も大衆向け。深夜は逆にお客さんを持っている若い演者でやろうというのがよりくっきり分かれていくんだろうなと思う。 ■ 語る系番組の増加 飯塚 改編の話で言うと、「バラバラ大作戦」(テレビ朝日)のラインナップが新しくなった。 井口 変わりましたね。せっかく全部出ようと思ってたのに。また1からやらなきゃいけないのか。 編集部注:井口は「バラバラ大作戦」グランドスラムを目指している。「2024年6月のお笑い」参照。 飯塚 また出られる番組を探していこう。水曜が「永野&くるまのひっかかりニーチェ」。これはもしかしたら出られるかもしれないね。 井口 よく会う人たちなので、出られる可能性はかなり高そうです。 飯塚 「森香澄の全部嘘テレビ」は難しいか。 井口 誰かゲストが出るわけじゃないですもんね。 飯塚 でもフェイクドキュメンタリーの一部になることはできるかもしれない。前回ゲストに来てくれた、紅しょうが稲田さんの「私が愛した地獄」も始まる。 井口 語る系ですね。語る系の番組がかなり増えてますよね。本音語る系、女性の意見語る系、斜めから物事を見て語る系。 飯塚 今はそういうのがよく観られる傾向にあるっていうのと、基本、語る系しかできない予算感なんだとは思う。ここからまた増えすぎると変わっていくかもしれないけど。 井口 増えすぎると淘汰されていくでしょうね。「耳の穴かっぽじって聞け!」が淘汰されるのは勘弁してほしいです。 飯塚 やっぱり、知らない番組の知らない企画って視聴者からすると観るハードルが高いんだと思う。みんなが知っている企画になるまで続けて粘る必要があるけど、今のテレビってそこまで粘る体力もない。知らない番組で知らない企画の第2弾をやっていても「観てみるか」とはなりづらいよね。そうなったときに、やっぱり語る系がわかりやすい。SNSでも「この企画が面白い」ということより、「この人がこんなこと言ってた」のほうが拡散されやすかったりする。作り手として前者で話題になりたいけど。 井口 「鬼レンチャン」(フジテレビ)とか「水曜日のダウンタウン」(TBS)とかは、何をやる番組かわかりやすいですもんね。連チャンを目指す番組、説を検証する番組って。そういうわかりやすいテーマがないと、途中からは入りづらいっていうのはありますね。 ■ 告知、大事 井口 あと、これはちょっとムカつくというか。 ──なんですか? 井口 若手って全然告知しないなと思って。僕は、出演した全番組すごい告知してるんですけど、「研修テレビ」(テレビ朝日)に行ったときに、あいつら(レギュラーメンバー)があんまり告知してなくて。なんでこっちがゲストで行ってあげてるのに誰もなんも言わないんだよ!? 今ってけっこう告知してないんですよ、みんな。レギュラー番組を持てるなんてすごいことじゃないですか。若手でもファッと番組が始まったりするからすごいこととは思わないんですかね? 確かに僕も、十数年前に「笑っていいとも!」(フジテレビ)のレギュラーになったときは「出られるんだなあ」とか気楽に思っていた部分もありましたけど。とろサーモン久保田さんの「耳の穴」への力の入れようとか、もちろん僕もですけど、すごいわけですよ。40とかになって、僕も久保田さんも、「なんとかこれをしていかなきゃいけないんだ」という気持ちで。 飯塚 もしかしたら、必死で告知するのカッコ悪いと思っているところがあるのかも。 井口 それはやだなー。 飯塚 いいとは思わないよね。 井口 僕は「これを作ってるスタッフさんに申し訳ないな」とかも思うから、いちいち告知しまくるんですけど。飯塚さんが言っていたのが、スクショだと検索に引っかからないから、毎回文字をちゃんと打ち込んで告知しているんですよ。と言ってもウエストランド情報(ファンによるinfoアカウント)のコピペですけど。 飯塚 演者さんが告知してるかって、スタッフによると思うけどけっこう僕は見てます(笑)。告知してくれているな、あんまりしてくれてないな、とかは思いますね。 井口 後輩の番組に行ったときにさみしい気持ちになるんですよね。僕だけ必死に告知してて。 飯塚 「がんばる」の総量が世代で違う気はする。井口くんや僕の世代は、理不尽なことが今より多くて、がんばらざるを得ない時代だったから、それによって「がんばる」ってこのくらいやることだな、という感覚が身についているというか。だから、今告知とかをあんまりしていない人たちも、別にがんばっていないわけではなくて、がんばり方が違うだけ。ただ僕らからすると「なんでもっと必死にやらないんだろう」とか思っちゃうところもあるけど。あと、告知コメントの内容でなんとなく番組に対する温度感も読み取れたりするけど、永野さんはすべてに対して「よろしくお願いします!」で統一しているよね(笑)。どれに力を入れているかがまったくわからない。あれはあれで、永野さんっぽい。 井口 まあ、僕も「見てください!」って書いてあのポーズしてる写真載せてるだけですけどね(笑)。めんどくさいよ、こっちだって。毎回、楽屋バリの前で写真撮らなきゃいけないんだから。 飯塚 撮り忘れてわざわざ戻ったりして。 井口 そうですよ。おっさんをおっさんのマネージャーが撮ってくれて、「あの写真送っといてください」とか言ってるんだから。 飯塚 ライブとかも全然告知しない人もいるよね。 井口 告知しろよ! くるまには言われたんですよ。「井口さん、すごい告知してますね」って。その感覚があるやつはまだいいです。「井口さんがんばってる」とも思ってないやつがダメ。 飯塚 そうだね。みんな「井口さん告知好きだなー」と思ってるかもしれない(笑)。 井口 告知が好きなわけじゃないんだよ!(笑) ■ 令和ロマンくるまのイジりポイントは? 飯塚 今月は、くるま氏が井口くんを評してる場面を何回か見た。「しくじり先生」(テレビ朝日・ABEMA)で、平場とかでイジってくれるのは鬼越トマホークと永野さんと井口くんだけだって言っていて。確かに、くるま氏をイジる人ってあんまりいなくて、先輩も一目を置かざるを得ない部分があって踏み込めなかったりするし、くるま氏側にもイジられる隙がないんだよね。 井口 「絶対王者」的なイメージがありますからね。でも、僕からしたらイジられていない人ほどイジったら面白いから、絡みにいくようにはしてます。 飯塚 「イワクラと吉住の番組」(テレビ朝日)で、くるま氏が井口くんとか永野さん、お見送り芸人しんいちくんを分類していたよね。自分と永野さんはパッションでしゃべってて、井口くんとしんいちは「ズルしてご飯を食べてる人」って。それ、ちょっとわかるなと思って。くるまさんはいつでも本音でしゃべっている感じがして、なんでも「◯◯論」みたいに思われちゃう。 井口 そうなんですよね。僕がしゃべることなんてどうでもいいけど、くるまがしゃべることは「そう思ってたんだ!」と本気で受け取っちゃう人が多いというか。 飯塚 キャラクターだったりしゃべりの圧の問題なのか、ウケ狙いで言っていても「主張」って思われているんだよね。一方、井口くんとかしんいちくんは、今その空間が面白くなるほうに平気でなびくから、本気に取られない(笑)。 井口 実際、考えなんか何もないですからね(笑)。笑ってもらえればなんでもいいんで。 飯塚 でもそれはそれで正義だから。 井口 でも本来芸人なんて全員、究極ウケりゃなんでもいいと思ってやっているはずですから。くるまも、後輩にイジられだしたらもっと面白いことになっていくかもしれないですね。 飯塚 本人がそれを望んでいるかはわからないけど、1個でいいからイジっていいところをくれよ、って思う。松本(人志)さんで言う、筋肉みたいな。筋肉のことだけは後輩がイジれるから。 井口 爆笑問題・太田さんも、光代社長のこと言われたときだけは黙っちゃうっていうのがありますしね。 飯塚 昔は若い人が出てくると、相撲の「かわいがり」じゃないけど、ウケる・スベる関係なくとにかくキツくイジられた。その修行みたいな期間を勝ち抜いてきて、井口くんとかハライチ澤部さんとかアンガールズ田中さんみたいに、強靭な芸人体力を身につけていったと思うんだけど、その通過儀礼は今もうないよね。 井口 そうなんですよ。だから「ロンドンハーツ」(テレビ朝日)もなかなかイジられる要員が増えない(笑)。 飯塚 そういう意味で、「さんまのお笑い向上委員会」(フジテレビ)みたいな場は必要だと思う。とりあえず一か八かイジってみる、みたいなことがないと、新しい人材が発掘されない。 井口 最近だと、きしたかの高野くらいじゃないですか? 高野だったら最悪スベってもそれはそれで成立するからいいですし。 ■ 芸人ドラフトで道が拓ける 井口 それで言うと、高野は「アメトーーク!」(テレビ朝日)の芸人ドラフトでザキヤマさんの1位指名。あれはうれしいでしょうね。 飯塚 ルシファー(吉岡)さんは千鳥ノブさんの3位だった。 井口 しかも、かなりイジりつつの絶賛。まさにルシファーさんの魅力ってああいうことですから。 飯塚 ノブさんの選抜は「チャンスの時間」(ABEMA)オールスターみたいな人選だったよね(笑)。 井口 ルシファーさん、「チャンスの時間」にあれだけ毎回出ていたかいがありましたよ(笑)。 飯塚 井口くんも昔、「芸人ドラフト」で有吉さんに指名されてたよね。まだ「M-1」優勝前だったから、抜擢感があった。 井口 あれはうれしかったです。そこから道が拓けた気もしますし。観ている人も「井口っていいんだ」となったんじゃないかなと思います。この人たちが認めてるならそうなんだ、みたいな。 飯塚 ちゃんとした人が言ってくれないと視聴者の人に伝わらないところはあるね。 井口 ただこの間、ハライチ澤部さんに会ったら凹んでました。 飯塚 凹んでた? 井口 わりと固めのメンバーにしちゃったのを反省していて。 飯塚 ああー。遊びがない(笑)。 井口 それをその場でイジられたからまあいいか、と思っていたら、やっぱり終わったあと普通に叩かれたらしいです(笑)。 飯塚 ガチで選んだんだろうなっていうのがわかって、それはそれで面白かったけどね。ノブさんに選ばれてルシファーさんの評価は上がった気がするけど、ルシファーさん本人は今後どうなっていきたいんだろう? 井口 そこなんですよね。僕は「オトステ」とかでルシファーさんをイジってめちゃくちゃ面白いなと思っていますけど、ルシファーさん自体がどうなりたいのか。ネタは間違いなく面白いけど、イジられるポンコツっぷりもある。「オトステ」リスナーがルシファーさんの単独ライブを観に行くと「こんなちゃんとしてるんだ……」ってなるんですよ(笑)。あのいつものダメおじさんからは想像つかないネタのクオリティなので。その2つの柱がリンクしてないところはありますね。そこが面白いんですけど。 ■ お笑いマン・マヂラブ野田 飯塚 「水曜日のダウンタウン」でやっていた「インフォマ-1GP」。空気階段、ニッポンの社長、さや香、令和ロマン、ニューヨーク、マヂカルラブリーというすごいメンバーが厳しい制約の中でインフォマーシャル用のネタを作る企画で、みんな面白かったけど、やっぱり個人的にはマヂラブのリアルゴールドマンのネタが好きだった。ああいうPR案件とか番組用に作るネタって、アリネタに取り入れるパターンと、0から作るパターンとあって、どっちもいいと思うんだけど、野田さんは本当に0から作ってくる感じがして好きなんだよね。「ドラフトコント2022」(フジテレビ)で野田さんが台本を書いたカンペのコントも好きだったんだけど、野田さんってこういうときいつもコンビのネタの延長とはまったく違うものを新たに作ってくる。 井口 0からってなかなかできないですからね。もともとのコンビの型にはめ込むとかはありますけど。その一方で、「はかる-1グランプリ」ではジグザグジギーだけアリネタやって優勝して後輩に文句言われるっていう事件もありました(笑)。 飯塚 あはははは(笑)。野田さんってタレントとして総合力が高いからか、あんまりネタを作る能力に着目されていない気がするんだけど、毎回笑いの新しい発明を持ってくるし、そういう場所で全力でがんばれる感じが好きなんだよね。 井口 野田さんなんて本当に、お笑いマンですからね。 飯塚 お笑いマンだね(笑)。お笑い筋肉マン。 ■ 明日の予定はスタンガン 井口 最近は配信系のデカい番組の発表が続いてますね。 飯塚 井口くん、またしんどい企画(※)に呼ばれてる(笑)。 井口 そうなんですよ。なんなんだよ! チャンピオンの仕事じゃないだろ! ※編集部注:藤井健太郎が企画・演出、Prime Video「KILLAH KUTS」の「街行く人に政治信条を聞いて『右寄り』と言われたら右折、『左寄り』」と言われたら左折しなくてはいけないレース」にウエストランドが参加している。 飯塚 井口くんの企画も大変だけど、「スポーツスタンガン」とかの「KILLAH KUTS」でやっている企画って、「テレビではできない」みたいな謳い文句はよくあるけど、テレビどころかどこでも見たことがない映像だった(笑)。YouTubeでも見たことないし、できないよね。 井口 僕界隈では話題になってましたよ、「あれのオファー来た……」みたいな(笑)。 飯塚 今、みなみかわさんと単独ライブの打ち合わせをしているんだけど、「明日、スタンガンっすわ……」って言ってた(笑)。人間が生きてて「明日スタンガン」なんて予定、普通ないから。スタンガンって不意打ちしかないから。 井口 また僕に近い人が多いですね。高野、しんいち、みなみかわさん。 飯塚 チーム「大脱出」だ(笑)。 井口 こういう配信のお笑い番組が今後も増えていくんですかね? 飯塚 演出家とか制作スタッフも有名な人じゃないと予算の大きい企画って動かないから、新進気鋭の人のめっちゃ尖った番組、みたいなものはまだテレビのほうが生まれる可能性があるんじゃないかなとは思う。 ■ 知らない芸人が優勝する日が迫ってる 飯塚 毎年呼んでもらっている「大学芸会」という大学生お笑いの大会の審査員を今年もやらせてもらった。毎年センスの鋭い人が多くて刺激をもらってるんだけど、その一方でネタがアングラ化しているなーとも思った。下ネタとか、芸能人の過激なゴシップネタが多くて、観客も大学お笑い関係者が多いからすごくウケていて。いわゆるテレビのお笑いとは別の世界だった。 井口 人気者お笑いへのカウンターみたいなことなんですかね? 飯塚 そうかもしれない。一時期はポップな、人気者お笑いの感じが流行ったけど、そこから尖りたい人が出てきてそっちが主流になってきたのかも。で、今はアングラっぽいネタで逆に被っちゃってる。前提として着眼点とか、ネタの発想とかセンスはすごいんだけど、「そんなに下ネタ入れなくても面白いのに……」とは見ていて思っちゃった。大学生お笑いのシーンがそれで盛り上がっているならいいんだけどね。 井口 プロではないわけですからね。楽しくやれているなら。 飯塚 アングラ化が進んで、ゆくゆくはまたポップなお笑いが大学生の間で主流になるかもしれない。 井口 その繰り返しですからね。 ──飯塚さんは「UNDER 25 OWARAI CHAMPIONSHIP」でも審査員をされていましたね。 井口 誰が優勝したんですか? 飯塚 大阪を拠点にフリーでやってる男女コンビのガングリオン。「UNDER 25」の出場者は「大学芸会」とは年齢的に2~3年の違いで、大学お笑い出身者も多かったけど、こっちはちゃんとみんなプロ仕様のネタだった。 井口 どんどんそういう若い人たちが出てきて、いよいよ本当に知らない人が「M-1」チャンピオンになってくるんだろうなと思います。近年のチャンピオンのマヂカルラブリー、錦鯉、ウエストランドってけっこう仲良しで僕にとってはよく知る人たちで、令和ロマンもK-PROライブに出ていたからギリギリわかりますけど、例えばエバースとか、本当になんのつながりもない人がバッと来る日がもうそこまで迫ってるんだろうなと。 飯塚 井口くんの強みではあったからね。上の世代も下の世代もみんな顔見知りって。 井口 僕は相当幅広く知っているほうなので。ライブとか番組で本当に知らない奴と絡むと新鮮だし、「僕のこと本当に嫌だと思ってないかな?」と思いますね。 ──井口さんがどういう人なのかまだ知らない若手。 井口 僕なんかずっと嫌なこと言っているわけですけど、その1回だけだったら「この人すごい嫌なこと言ってくるな……」と思われそうじゃないですか。 飯塚 下の世代になればなるほど「失礼で嫌な人だな」って思われるかも。 井口 1年間見ていれば、1年間嫌なこと言ってるからもうどうでもよくなるでしょうけど。だからちょっと嫌なんですよね、知らない若手。 飯塚 そういう現場のあとにや団とかに会ったらめっちゃうれしいんじゃない? 井口 そうですね。ついつい言いすぎちゃいますもん。「本当どうしょもないっすねー!」とか。 飯塚 うれしくて(笑)。 井口 うれしくてついつい言いすぎちゃいます。 ■ 尾崎からの一周 井口 芸人に限らずですけど、事務所を退所して独立する人が最近多いじゃないですか。なんか、尾崎(豊)から一周してるというか。「自由になりたい」が流行ることってあるんだなという気がするんですよね。僕からすると、校舎の窓ガラスは割っちゃダメだし、座って勉強しろよって思うんですけど。 飯塚 あははは(笑)。個人事務所って一長一短あると思うんだけど、例えば井口くんが個人事務所のタレントだとして、「大脱出」に出てたらなんか違和感あるというか。「もうやだよ」と言いながら、自分で「これやります!」とオファーを受けて出てるんだ、って思うかも(笑)。事務所が受けちゃってるからやらなきゃいけないんです、と言いたい部分もあるじゃん。「やらされてる」ていでやっているほうが楽っていうものも世の中にはいっぱいあるから。 井口 そうなんですよね。僕個人としては、デカいところにいたほうが面白いかなとは思います。もちろん人によるし、やりたいことが明確にあれば、そっちのほうが動きやすいと思いますけど。 飯塚 みなみかわさんは独立したけど、奥さんに手綱握られてる感もあってちょうどいい。「なんかスケジュールに入ってて」って言えるだろうし。 ■ 井口カルチャースクール ──ほかに9月の気になる話題はありますか? 井口 若い人たちに覇気がないですね。 ──覇気がない、というのは? 井口 うーん。なんか、覇気がないんです。大丈夫か?ってくらい覇気がない。 ──ぐったりしている? 井口 ギラつきがないんですよ。ギラついてればいいってわけでもないですけど。心配になるくらい覇気はないです。僕としてはもっと、椅子にこう(浅く)座って、こう(いつでも飛び出せる状態に)しててほしいんですよ。飲んでても覇気ないし。 飯塚 ちょっと違う話かもしれないけど、要領がいい人が得する時代になっている気がしていて。要領悪いけどとにかくいっぱいチャレンジして、努力をすごくできる人もいるはずだけど、今の世の中では要領のいい人が語るスマートな成功論が歓迎されてる。成功者のビジネス書とか読んでも、みんながみんな要領のいい人の真似できるわけじゃないし、がむしゃらにやるしかないところを、「クールにやっていこう」みたいな論調が幅を利かせちゃってるなと。 井口 だから、そういう人とは仲良くなれないですね。 ──がむしゃらな人のほうがいい? 井口 覇気がないんで。そういう人って辞めますしね、絶対に。まあ時代が違うというか。親の死に目にも会えない気持ちでやってる人はいなんだなって思います。すべてを捨ててきました、みたいな人はもういないですね。 飯塚 そうじゃなきゃいけない瞬間が昔はあったからね。例えば、テレビ番組とかの収録があるのに、急遽家に帰らなきゃいけないことが発生したら、今だったらスタッフさんも「もちろんそちらを優先してください」という感じだと思うけど、「それでこのチャンスを棒に振る奴だったらもういいよ」みたいなノリは僕らときもまだちょっと残っていたから、その粘りみたいなものはあったと思う。難しいのが、こういうのって全部「おじさんの根性論」にまとめられて、「古いよね」の一言で片付けられちゃうから、そこがみんなががむしゃらになれない理由なのかなと思う。ダサいからね、がむしゃらにがんばるのは。 井口 そうなんですよ。 ──ハラスメントになりかねないので「がむしゃらになれよ」とは言いにくいですしね。 井口 僕は言っていきますし、友達にもなりませんよ、そんな奴とは。結果出していればまだしも、結果も出してないのになんでスカしてんだよ?って話ですから。 飯塚 そういう井口ムーブというか、自分も後輩に言えるようになったらいいなと思う。半分愛情、半分マジみたいなことは日頃からやってないと伝わらないから、急にやっても「めっちゃ怒られた!」ってなっちゃうから。井口くん、やったほうがいいんじゃない? そのカルチャースクール。 井口 やろうかな。本出そうかな? 飯塚 「トドメを刺さない叱咤激励術」。 ──「今月のお笑い」から出しましょうよ。 飯塚 そういう技術があるんだったら身につけたい人もいると思う。いっそのこと全部、今の世の中の風潮の逆を書けばいいんじゃない?(笑) 「親の死に目に会えないつもりでやれ!」とか「なるべく飲み会に行け!」とか「仕事は一切断るな!」とか。 井口 あはははは(笑)。たまに世の中の風潮と逆のことを言うネタをやったりしますけど、1つもアンチコメントが来ないってことは、実はみんな思ってるってことですよね。自分は先輩からあんなに言われてきたのに、いざ後輩ができたら全然言えないじゃんってことに憤ってるということですから。 飯塚 9月の気になる話題が「若手に覇気がない」(笑)。 井口 あと嫌なのが、タイタンの学校の奴とか預かりの奴、K-PROの若手の奴が、金魚番長が賞レースで優勝していることに対して、異世界のことだと思っている。「同世代の奴になんか絶対負けないぞ」という気持ちでやらないと! 「おめでとう~」じゃないんだよ! 2回戦くらいで負けて「こんなもんでしょ」と思っちゃってる感じがムカつくんです。「あいつらは別なんで……」とか言っている奴らは、絶対に成功しません! 井口 あ、かもめんたるの単独ライブを観させてもらったんですけど、配信終了までに告知するのを忘れちゃったんですよ。面白かったので、次回ぜひみなさん観に行ってください。今回のは終わっちゃいました。 飯塚 「UNDER 25」の決勝のMCが槙尾さんで。 井口 槙尾さんがやってたんですか!? 飯塚 槙尾さんっていうかかもめんたるの2人と、かが屋。決勝のあとミニ打ち上げがあったんだけど、槙尾さんがちょうど配信されたばかりのさらばのYouTubeの「馬狼」に出ていて、「あれ見た? みんな」ってすごい言ってた。 井口 なんだそれ! 見てらんないなあ。 飯塚 自分の出世作かのように触れ回ってた(笑)。 井口 この間会ったら「飲食店も成功できないやつは売れない」みたいなわけわかんないこと言ってましたよ。 飯塚 あとみなみかわさんの単独ライブ「よかれ」の大阪公演が迫ってきていて、大変そう。井口くんとかみなみかわさんみたいな過酷仕事をしながら同時にネタも作ってる人って、実は井口くんとみなみかわさんだけじゃない? 井口 そうですよ。本当にすごいんだから。最近みんな、単独前は仕事を抑えてネタ作りの時間取るじゃないですか。なんで僕だけこんなスケジュールの中、(新ネタライブの)「漫才工房」やんなきゃいけないんだよ! 飯塚 (きしたかの)高野くんとか、(ザ・マミィ)酒井くんとか、ともしげさんとかは、相方がネタがんばってくれてるし、ちょっと違うよね。みなみかわさんも過酷スケジュールの中で単独の準備してて、けっこう追い込まれてそう(笑)。 井口 大変そうでしたね。昨日か一昨日も会いましたけど、「このあと単独の稽古や……」っていつもとは違う表情でした。体張る系の仕事のときはつらくてもどこか輝いた目をしていますけど、単独となると違う大変さですからね。 ■ プロフィール □ 井口浩之(イグチヒロユキ) 1983年5月6日生まれ、岡山県出身。2008年、河本太(コウモトフトシ)とウエストランドを結成。2013年4月に「笑っていいとも!」(フジテレビ)のレギュラーに抜擢され、最終回まで不定期で出演した。2012年から2014年に「THE MANZAI」認定漫才師。「M-1グランプリ」では2020年に初の決勝進出を果たし、2022年に優勝! ラジオ形式の番組「ウエストランドのぶちラジ!」をYouTubeなどで配信中。とろサーモン久保田とのレギュラー番組「耳の穴かっぽじって聞け!」(テレビ朝日)は毎週火曜26:34~。タイタン所属。 □ 飯塚大悟(イイヅカダイゴ) 1982年4月13日生まれ、新潟県出身。テレビ、ラジオの構成作家。現在の担当番組は「サンドウィッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん」「家事ヤロウ!!!」(テレビ朝日)、「水曜日のダウンタウン」「クレイジージャーニー」(TBS)、「ヒルナンデス!」(日本テレビ)、「オードリーのオールナイトニッポン」(ニッポン放送)など。書籍「深解釈 オールナイトニッポン~10人の放送作家から読み解くラジオの今~」(扶桑社)。