【大島幸久の伝統芸能】明治座で「一本刀土俵入」「お染の七役」花形の女形トップランナー中村七之助に目が向いた
◆明治座「十一月花形歌舞伎」(26日千秋楽) 「待ってました、中村屋!」。8年ぶりの明治座登場に浜町の下町っ子の掛け声が聞こえるようだった。中村勘九郎(43)と七之助(41)兄弟を中核に2人の祖父、父の芸と精神を受け継ぐ奮闘公演だ。 花形の女形トップランナー七之助に目が向いた。昼の「一本刀土俵入」でお蔦、夜は「お染の七役」。祖父7世芝翫の名演が忘れ難いお蔦は初演の際に教わった。早替わりが見せ場の“七役”は同じく初演の時に坂東玉三郎に鍛えられた。 お蔦は序幕1場・茶店旅籠・我孫子屋の2階で一間の障子が開き、祖父が使った湯呑みで酔って立った姿がすでにすれっからしの風情の風情がある。「きたさのさっさ、どっこいしょ」と、故郷の小原節を口ずさむ芝居、江戸へ向かう勘九郎の駒形茂兵衛に「ようよう、駒形!」と右手を上げた哀しい姿など気持ちを込めたセリフで情感が溢れ、大成長である。 “七役”は5度目。序幕1場が猛烈な速度で替わっていく。最初のお染から久松へ15秒、久松から竹川へ20秒、竹川からお光は30秒、お光から小糸が30秒のここが面白い。華のある美貌が光る。 そして男まさりの悪婆、土手のお六。亭主の喜兵衛(喜多村緑郎)と油屋へ強請(ゆすり)に入り「たばこの火もねえよ」と啖呵(たんか)を切るセリフで凄味を出した。悪事がバレ、空駕篭の先棒を担いでテレる愛嬌(あいきょう)。骨太で自在の7役を磨き上げた。 名女形2人の当たり役を継承している七之助。近い将来、父18世勘三郎と同じ兼ねる役者の道へ疾走が加速している。(演劇ジャーナリスト)
報知新聞社