2024年の出来事を武田砂鉄が振り返る「とにかく逃げる、逃げる、逃げる」──「裏金問題」「袴田事件」「大阪・関西万博」「マイナンバーカード」ほか
12月2日から紙の健康保険証の新規発行が停止され、基本的にマイナ保険証に一本化されたが、あくまでも基本的に、なので例外はあり、期限切れまで紙の健康保険証は使えるし、その後も資格確認書が発行される。そもそもマイナンバーカードの作成は任意なのだから、資格確認書についても期限を設けるべきではない。そして、紙の保険証との併用を今からでも認めるべきだろう。 湯水のごとく税金を使い、それでも医療機関での使用率が10%台という大失敗プロジェクト、推進に奔走していたのが河野太郎前デジタル担当大臣だが、彼が何を言っていたか覚えているだろうか。昨年12月12日の会見で、「イデオロギー的に反対される方は、いつまで経っても『不安だ』『不安だ』とおっしゃるでしょう。それでは物事が進みません」と述べた。こうなると、8割以上の国民がイデオロギー的に反対し続けていることになるが、不安を解消するための動きは弱かった。自分の思う通りにならなかった時、反省しながら見直すことができない人・組織が国民の生活を握るのは困る。
思う通りにならない、といえば、来年4月から開催される大阪・関西万博だろう。とにかくトラブルだらけ。パビリオンの出展を取りやめる国もあり、会場でガス爆発が起き、何かあった時の避難計画の不備が指摘されている。そして何より開催費用が高騰し、先日には、出展取りやめによって空いてしまった場所に休憩場を作らないといけないが、それについては日本側が警備等を担当する必要があるので、更にコストがかかると明らかにした。そして、チケットがちっとも売れていない。売れ行きがあまりにも悪いので、経済団体が大量に買い占め、「〇〇万枚売れた」の数値を底上げしている。その様子を知れば、当然、ますます買わなくなる。 書店などで、100人に満たない規模のトークイベントをよくやっているのだが、人が集まるかどうか、毎度心配になる。なので、丁寧に告知を繰り返す。会場側に赤字を作らせてはいけないし、閑散としているイベントをやりたいとは思わないので手を尽くす。当たり前の流れだ。ほとんど誰も行きたがらない万博はどうするか。なんと、広報宣伝用に「機運醸成費」として29億円積み上げるのだという。つまり、もっと宣伝すれば来てくれるでしょう、と考えている。いや、そうではなくて、このままだと大失敗になると自覚した上での対応が必要なのだが、どうやらまだ、「どうして来てくれないんだろう?」と思っているらしい。ちなみに、万博の経済効果云々が語られる時の数値は、目標の入場者数に到達する前提での話。 謝らずに逃げる、開き直る、誰かのせいにする。こういった手口が横行すると、割を食うのは、そこで暮らしている人々。つまり、私たち。それでもアイツらは黙ってるだろうからと高をくくられている。今年に限った話ではないが、逃げて開き直る、この限度をいよいよ超えてしまった1年だったのではないか。
武田砂鉄 ライター 1982年生まれ、東京都出身。 出版社勤務を経て、2014年よりライターに。近年では、ラジオパーソナリティーもつとめている。『紋切型社会─言葉で固まる現代を解きほぐす』(朝日出版社、のちに新潮文庫) で第25回Bunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞。著書に『べつに怒ってない』(筑摩書房)、『父ではありませんが』(集英社)、『なんかいやな感じ』(講談社)、『テレビ磁石』(光文社)などがある。 文・武田砂鉄 編集・神谷 晃(GQ)