「リーマン級」金融危機か…トランプ2.0で長期金利上昇、オフィスビル・集合住宅向けローンにデフォルト懸念
■ 長期金利の上昇が招く大惨事 米連邦政府の財政赤字が急拡大していることも悩みの種だ。 トランプ氏の公約が実現すれば、今後10年間で7.5兆ドル(約1100兆円)の財政赤字の要因になると見込まれており、米国債の大量発行により長期金利が急上昇する可能性は排除できなくなっている。 足元の状況をみてみると、米連邦準備理事会(FRB)が9月以降、合計1%の利下げを行ったのにもかかわらず、長期金利は1%近く上昇している。FRBの利下げサイクルで長期金利が上昇したのは1984年以来の出来事だ。 長期金利の上昇で最も打撃を受けるのは米商業不動産だと筆者は考えている。 コロナ禍以降、米国で在宅勤務が急速に普及したことが災いして、オフィス需要の不振が続いている。特に古い物件ではテナント離れが進み、「空き」が埋まらない状況が続いており、大幅なディスカウント価格で売却される事例が相次いでいる。 格付け会社ムーディーズは「2026年までに米国全体のオフィス面積の4分の1が空室となり、その価値が2500億ドル(約38兆円)減少する」と試算している。 12月3日付ブルームバーグが「都心部のオフィス物件が苦戦しており、シアトルの大手開発業者がデフォルトに陥った」と報じているように、事業環境はさらに悪化している。 ブルームバーグによれば、商業用不動産の所有者は来年末までに1兆5000億ドル(約225兆円)相当の債務が返済期限を迎えるが、その4分の1は借り換えが困難でデフォルト懸念が広がっている。
■ リーマン・ショックの二の舞になる理由 12月16日付ブルームバーグは「オフィスの価値低迷は米国の銀行業界に波及しており、中小の金融機関で悪影響が顕在化している」と報じている。 「泣き面に蜂」ではないが、オフィスビルに加えて集合住宅も苦境に陥っている。 米国の集合住宅市場は2010年代以降、急拡大し、今や建設中の住宅物件の6割を占めるようになった。米国の集合住宅の多くは賃貸で、ノンバンクやREIT(不動産投資信託)が投資用に保有しており、日本のように居住者が一室を購入するケースはまれだ。 「集合住宅への投資は30%のリターンが保証されている」との期待からマネーが殺到し、市場は過熱状態となっていたが、金利上昇後、価格は急落した。 FRBによれば、昨年第4四半期の価格はピーク時の2022年第2四半期に比べて2割下落したが、足元の価格は市況の悪化を十分に反映していないと言われている。 格付け会社フィッチは「集合住宅向け融資は昨年末時点で6130億ドルに達した」と分析している。関係者からは「集合住宅向け融資はオフィス向け融資以上に危険だ」との声も聞こえてくる。 商業用不動産の不振は金融市場にも悪影響を及ぼしつつある。 問題視されているのは、CRE・CLOと呼ばれる商業用不動産ローンのプールを裏付けとして発行される証券だ。普通の不動産ローン担保証券(MBS)に組み入れるにはリスクが高すぎると判断された債権を束ねたものである。 ハイリスク・ハイリターン金融商品に属し、リターンは期待できるものの、市場環境が悪化すればその影響を最も大きく受ける。 オフィスや集合住宅分野のCRE・CLOのディストレス(行き詰まった状態)率は今年に入って上昇しており、15%前後と高率だ。 気になるのは、CRE・CLOがリーマンショックの大本の原因となったCRE・CDO(債務担保証券)に由来していることだ。投資家保護を強化した上で2019年末に発行が開始されたが、これまで逆風にさらされたことはない。来年以降、米国の金融市場の撹乱(かくらん)要素となる可能性は排除できないと思う。 「歴史は繰り返す」というつもりはない。ただ、米国の金融市場に蓄積されているひずみが重大な危機に発展するリスクへの警戒を怠るべきではないだろう。 藤 和彦(ふじ・かずひこ)経済産業研究所コンサルティング・フェロー 1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。2016年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』ほか多数。
藤 和彦