埋もれている名著を再発見する意義とは? ベストセラー作家・原田ひ香と角川春樹が語る
◆明らかになる2人の意外な繋がり
――角川映画の礎を築かれた社長に愚問かもしれませんが、このフィルムストーリーという本を発案されたのも社長ですよね? 角川 もちろん(笑)。最初に作ったのは映画「人間の証明」の時だ。森村誠一の小説を元に松山善三が脚本を書いたけれど、原作にはないニューヨークのシーンが出てくる。そのシーンが良くてね。だから本として残したかった。ただね、脚本との関りはそれ以前にもあって、エリック・シーガルの『ラブ・ストーリー』が映画化された際、脚本がノベライゼーションされたが、その翻訳をしたのが私だったんですよ。 原田 「愛とは決して後悔しないこと」のコピーで有名な、あの映画ですか? 角川 そうそう。そのコピーは後から誰かがつけたんだけどね。 原田 社長が翻訳されていたなんて、まったく知りませんでした。 角川 言ってないからね(笑)。ペンネームでやったんだよ。ただ、知ってる人もいて、その一人が高橋三千綱だ。翻訳に影響を受けて小説を書くようになったと言ってくれた。 原田 影響を受けるというのはすごくよくわかります。私は脚本からスタートしていますが、初めて書いてみようと思ったのは三十歳くらいで、それまで脚本のようなものは「Wの悲劇」しか読んだことがなかったんです。でも、自分でも意外なくらいにすらすらと書けた。ヤングシナリオ大賞に応募したその脚本は、賞は取れませんでしたが最終選考まで残り、仕事に繋がりました。このフィルムストーリーがあったからだと思っています。文章がどう映像になるのかということを学ぶことができました。 角川 そんなこともあるんだね(笑)。 原田 もちろん、「Wの悲劇」という映画が本当に良くできた作品だったからだと思います。起承転結の作り方もそうですし、特に余韻ですよね。最後の薬師丸ひろ子さんがカーテシーのようにスカートを広げ、おじぎをするところとか。あれほど学べる映画はないと思います。だからこそ、一冊の本としても素晴らしいものになっている。あぁ、やっぱり持ってくるべきでした、私のフィルムストーリーを。 角川 えっ? 持ってるの? 原田 はい。いとこにもらったあの日から大切にしてきました。実は社長と初めてお会いした時はサインしていただきたくて持ってきていたんです。でも、言い出せなくて(笑)。 角川 あははは。 ――原田さんが作家として今日あるのは、角川社長の仕事があったからなのではないかと思えてきました。 原田 そうかもしれません。 角川 私も意外な繋がりを聞いて、驚いているよ。 原田 中学生の頃の自分に言ってあげたい。角川春樹さんと対談できるよって。これまでにも多くの方が同じことをおっしゃっているとは思いますが、本当にそう思います。これ、今日お会いしたら最初に言おうと思っていたんですけど……。 角川 いや、いい締めになったんじゃないか(笑)。第三作も書いていただけると聞いています。期待しています。 【著者紹介】 原田ひ香(はらだ・ひか) 2005年「リトルプリンセス2号」で第34回NHK創作ラジオドラマ大賞、07年「はじまらないティータイム」で第31回すばる文学賞受賞。他の著書に「三人屋」「ランチ酒」シリーズ、『東京ロンダリング』『母親ウエスタン』『口福のレシピ』『DRY』『母親からの小包はなぜこんなにダサいのか』『財布は踊る』『まずはこれ食べて』『図書館のお夜食』『喫茶おじさん』『定食屋「雑」』など多数。『三千円の使いかた』『一橋桐子(76)の犯罪日記』はドラマ化もされ、大ベストセラーになっている。 [文]角川春樹事務所 構成:石井美由貴 写真:島袋智子 協力:角川春樹事務所 角川春樹事務所 ランティエ Book Bang編集部 新潮社
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