ダイエット内科医ががん治療のなぜ?科学的根拠に欠けるがん自費細胞療法が大手を振って提供されるのはなぜか
■ 「藁にもすがる」それでよいのか がんはステージ1から4に分類され、がんが体内で広がるにつれて数字が上がる。ステージ4は、元の発生部位から遠隔に転移した状態であり、主に薬物療法が行われ、一般的には化学療法と呼ばれる。 最近では、分子標的薬と呼ばれる薬が登場し、がんの特定の分子を狙う治療法が開発され、治療効果は格段に向上している。 さらに、免疫チェックポイント阻害薬と呼ばれる薬が2014年に登場し、体内の免疫を活性化させる効果で延命効果を飛躍的に高めたことは広く知られている。この仕組みを発見した京都大学の本庶佑氏は2018年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。 このように治療の選択肢は広がっているが、それでもがんが全身に広がっていたり、特殊な遺伝子変異で増殖能力が高かったりすると、治療の手段は限られる。そうしたときに、患者はたとえ科学的根拠が乏しくても、できることは何でも試そうと考えがちだ。 ジャーナリストの金田信一郎氏が、自身のがん闘病を綴った『ドキュメント がん治療選択』という書の中で、ある末期がんの女性について描いている。 その女性は、ある分野で実績のある人物だったが、闘病の中で「金の延べ棒療法」という民間療法に傾倒していく様子が記されている。客観的に見れば、治療効果があるとは思えない方法だが、本人は真剣にその治療を続け、結果として亡くなる。 書籍の中では、その女性が治療手段のない中で、治療効果よりも金の延べ棒が精神的なよりどころになっている状況が示されている。追い詰められた状況の中で、溺れる者は藁をもつかむ心境に至るのは、理解できる部分もある。 一方で、民間療法を提供する側は経済的な利益を得ており、弱者を食い物にしているとの批判を免れない。
■ 「ダイエット内科医」ががん治療を提供する現状 翻って、がんの自費細胞療法も、民間療法と同じように、選択肢がなくなった患者にとっての「神頼み」のような位置づけだと考えれば、ニーズがあることは理解できる。治療を提供する側が利益を得ている点で、弱者を食い物にしているという批判を受けるのも同じである。 ただし、民間療法とがんの自費細胞療法には決定的な違いがある。それは、民間療法が法的な制度に従っていない一方で、がんの自費細胞療法は規制対象になっているという点である。 日本では2014年に「安確法」が施行され、再生医療の提供には「再生医療等提供計画」を作成し、民間の「再生医療等委員会」の審査を受けることで実施可能となった。これは実質的に、国の審査を不要とした点で規制緩和と言える。趣旨は、日本が世界でも実績を上げている再生医療をいち早く実用化しようというものだった。 再生医療はリスクに応じて第1種から第3種に分類され、自家NK細胞療法は第3種に該当する。この制度により、多くの医療機関で再生医療が提供されるようになった。 筆者が厚労省のデータベースで確認したところ、安確法に基づく審査により全国で提供されているがんの細胞療法に関連した治療メニューが約1000存在することがわかった。北は北海道、南は沖縄まで、全国で提供されている。東京をはじめ大都市部のクリニックが目立つ。 提供している医療機関は、がん専門のクリニックばかりではない。内科のクリニックのほか、整形外科、眼科、健康診断、美容医療関連のクリニックなどが名を連ねる。 今回の厚労省の緊急命令を受けたクリニックの責任者も、がん治療の専門医ではなかった。データベースにある責任者の医師をネット検索すると、「ダイエット内科医」として紹介されていた。 また、再生医療等提供計画を審査する再生医療等委員会のデータを見ると、特定の委員会が大量のがん治療計画を審査していることもわかる。自分自身のグループとみられるクリニックの審査を行っているような傾向があり、公正性に疑問が生じる。 幅広い医療機関でがん治療に関わるのは一見よいことのように思えるが、これらのクリニックが果たして適切ながん医療を提供できているのか疑問である。今回の厚労省の緊急命令を機に、改めて体制を見直す必要があるのではないか。