若い女性が力を発揮できない「インポスター症候群」とは?
デジタルネイティブ世代が「インポスター症候群」に陥りやすい要因とは?
――リストを見ると、多くの人がひとつは感じたことがありそうなものばかりですね。例えば、20~30代が陥りやすい要因などはあるのでしょうか。 小高さん 若い世代の場合、特にSNSの普及によって誰もがステップアップへのチャレンジや成功をつかみやすくなった分、インポスター症候群に苦しむ人が多くなったように感じます。 ――「自分を演じることに疲れる」「リアルな自分とのギャップを感じる」といった、“SNS疲れ”も関係しているのでしょうか。 小高さん そうですね。特にデジタルネイティブである若い世代は、さまざまな情報に囲まれていることが当たり前の状況に生きています。自分の本質を模索する時期である10代からその中で過ごしていると、自分の意見ではない「誰かの言葉」や「情報」を土台にして、なんとなくアイデンティティを確立したような気になってしまうことも多いはずです。 そのため、社会に出て個人の意見を求められたときに等身大の自分の意見が出てこなくて自信を失ったり、自分の本質を見失ったり、空虚感から不安につながったりしやすのではないかと思います。
女性の社会進出を阻むのも「インポスター症候群」
――インポスター症候群の概念が初めて報告された1978年の論文では、社会的に成功している150人以上の女性を5年間にわたって調査したそうですね。女性のほうが社会や環境から影響を受けやすい要因があるのでしょうか。 小高さん 1970年代のアメリカでは女性の社会進出が進んでおらず、「出る杭は打たれる」の諺どおり、社会的に成功した女性が自分のことを肯定しにくい世の中だったという背景があります。また、「成功」や「失敗」のとらえ方をみると、男性は成功を自分の能力や才能、努力など個人的な要素に結びつける傾向がありますが、女性の場合、成功したのはタイミングや運のおかげであり、失敗は個人的な欠点が原因だと考えやすいといわれています。 ――「女性が自分のことを肯定しにくい世の中」というのは、今の日本の状況とも重なりますね。 小高さん まさに「ジェンダー平等の実現」に対する理解が深まらないまま、見切り発車的に制度だけを進めている日本のアンバランスな状況や、「こうあらねばならない」といった同調圧力に対する恐怖心などは、大きな要因になると思います。また、女性はライフイベントによって生活や環境が大きく変化しますが、そのタイミングでSNSの情報に振り回されてしまう人も多いようです。そのため、インポスター症候群は女性の社会進出を阻むものとしても注目されるようになっています。 ▶︎続く後編では、具体的なお悩みに対して、小高さんから解決のためのTIPSを教えていただきます。 お話を伺ったのは… 公認心理師 小高千枝 小高千枝メンタルヘルスケア&マネジメントサロン代表。カウンセリングオフィスでの臨床をはじめ、企業顧問として従事。女性の自立と自律の支援活動に注力し、子育て、うつ、人間関係、コンプレックスの克服、ライフデザインなどの講演も行う。ユーキャン『心理カウンセリング講座』監修。著書に『本当の自分を見失いかけている人に知ってほしい インポスター症候群』(法研)。 構成・取材・文/国分美由紀 企画/種谷美波(yoi)