世界の海を1万本以上潜った日本人女性のセカンドライフ『旅人マリーシャの世界一周紀行』第369回
前回に続き「世界で活躍する日本人女性のその後」の第2弾、今回はメキシコのリゾート・カンクンでの出会いから。 【写真】カンクンで出会った茂手木さんと海を描いた作品 * * * 世界一周の出発と同時に開始したこのコラムもついに10年。海好きの私は旅の裏テーマに「世界の美しい海を発信したい」という思いがあったが、旅をしている中で「本当の海好きとはこういう人」と思う人に出会い、ビーチの波打ち際でパチャパチャやってる自分が海を語るには100年早かったなと思い知る。 ■メキシコ・カンクンで出逢ったダイビングインストラクターの茂手木聡子さん 2016年、私がメキシコ・カンクンで海底美術館(MUSA)のツアーに参加すると、ダイビングインストラクターは茂手木聡子さんという日本人女性だった。彼女はカンクン在住で、私のような旅人を海の世界へ連れて行ってくれるエキスパートだった。 出会った時の印象は、カンクンの強い日差しに焼かれた小麦色の肌と日々の泳ぎで鍛えられ引きしまった身体が、 「か、かっこいい......!」 その筋肉美となんならお顔も素敵で、海に潜れば泳ぎのしなやかさと頼り甲斐に「惚れてまうやろー!」と思った。 それもそのはず、彼女は中2の時に初めてダイビングをして「これしかない」と確信。海には実に1万本も潜ったという"本物"だったから。プロの仕事は美しくオーラがある。 彼女はダイビングインストラクターの仕事を「行きたい海を選んでは移り住み働く大好きな仕事」と言い、カンクンで自由気ままな生活をして人生を謳歌していた(ように私には見えた)。世界を転々とする旅人の私は、自分の好きな場所に定住する理由とその能力があることが羨ましく憧れた。 そんな彼女は今はどこで何をしているのだろう。彼女にとっては一観光客でしかない私だが、私にとっては忘れられない景色をくれた人。同じ海好きとして、馴れ馴れしく近況を聞いてみた。
パンデミックを経た今、彼女は日本にいて、25年間続けたダイビングインストラクターは引退していた。 「ダイビングもサーフィンも今は趣味の範囲で楽しんでいます。引退までは、"ひたすら海にだけ浸かり続けてきた自分は何ができるだろう"と考え、これまで見てきた鮮やかな海の世界を絵で表現していました。 そのうちダイブショップや壁画、珊瑚の保全活動の絵を描く機会を与えていただいたり、サーフボードアートや展覧会出展など、今は関東や沖縄など声がかかれば赴くまま、のんびりな製作活動をしています」 なんと彼女には絵の才能もあった。神秘的な海の世界を描くには画力が求められそうだが、その腕はなんと「第46回現代童画展」で新人賞を受賞したほど! 「今まで水中世界に触れる機会がなかった人や子供たちにも、こんな世界があるんだって関心を持ってくれるきっかけになれば嬉しいです。 実際に見てきた世界を自分なりに描く中で、それを見て喜んでくれる人たちの顔は、今まで海でガイドしてきたお客さんが目を輝かせていたのと同じくらい幸せな気持ちになれるので。ワクワクするような海の絵をおばあちゃんになるまで描いていけたらいいなと思ってます」 世界の自然と触れ合う中で彼女だけが見てきた景色がある。それをシェアできるのは素晴らしいし、説得力がある。そして、ここにもそうでありたいとコラムの連載を続けてきた旅人がいるが、なかなかどうして文章で伝えるのはこんなにも難しいのかといつも頭を抱えている(てへ)。 彼女のインスタをのぞくと、椅子にメキシコのオトミ族の刺繍柄をペイントをしたり、仕事着として酷使するビキニを自作したり、様々な物を作っている様子がうかがえた。 特に印象的だったのは「スリ防止用のリュック」。背中側が開くようになっている鞄であり、近所のおばあちゃんに作ってあげたのだというが、(日本よりは)治安が悪いメキシコならではの発想である。 茂手木聡子さんのインスタグラム【@sato.mote】