世界の海を1万本以上潜った日本人女性のセカンドライフ『旅人マリーシャの世界一周紀行』第369回
「20年以上の長い異国生活の中ではメキシコなどゆるい国も多かったので(笑)、日本での生活は想像し難いものでした。 今さらきちんとした国で生きてくなんて自分にできるのだろうかと。自分の生まれた国に帰って生活する日は一生ないのかなとか、もしそんな日が来たらどの面下げて帰るんだろう、とか(笑)。 でもその反面、どこかでぼんやり日本に憧れている部分もあったのかなと思います」 海外で暮らす日本人は頭の隅で"いつか永久帰国するかもしれない時"のことを意識しているだろう。旅人の私もいつも"いつこの旅は終わってしまうのだろう"と考えていた。 そして、彼女も私も想像より早くその生活が変わったのは、やはりコロナの影響だった。 「引退も考え始めた頃のコロナ禍突入だったので、それがまさかの現実となり、こんな機会がなかったら自分の国に帰る勇気はなかったんじゃないかと、ある意味感謝でした」 これは私もめちゃめちゃ共感。あの時がなかったら私は今もまだ世界中を旅していたかもしれないし、それも最高だが、それと引き換えに犠牲にするものも多かったと思う(恋愛とか婚期とか、すでに犠牲にしたものは多かったけど)。 旅人を辞めるのも怖いし、辞めないのも怖い、そんな時期だったと思う。まぁ、私の場合は国を転々としながらやれる仕事がないところが彼女と大違いだが。 「海外での不便な生活も楽しくすっかり慣れていたけれど、そんな生活がなかったら自分の国がどれだけ安全で素晴らしいかも身に染みて感じることはなかったと思います。 帰国してどっぷりぬるま湯生活4年目ですが、感謝の気持ちや訪日外国人のような驚きと感動はいまだ続いていて、日本での生活は尊いものと感じてます」 日本は治安の良さ、サービス、ご飯の美味しさ、トイレの清潔さなどが世界一。これがどんなに貴重なことで、居心地の良いことか。 今は日本での生活に落ち着いている彼女だが、他に気になる国を尋ねてみた。 「他に住みたい国が今は特に浮かばなくて、その前に自分の国の海を知る旅がしたいと思ってます。 帰国後に日本各地の海を周ったら、とんでもなくキレイな海や鮮やかな珊瑚礁を目にして、自国の海も知らないままで外にばかり出たがってた自分をちょっとイタイなと思うくらい衝撃だったので(笑)。 今度どこかの国にお邪魔する時は、世界に誇れる海が自分の国にあることも自信を持って言えるようになれたら素敵だなと思ってます」 私もよく"日本のことは知らないんだね"と驚かれ、笑われることも。でも一つ言わせて! 体力的にハードな経験は優先的にやっておかないと後々できなくなるかもだし、日本についてはこれから知っても遅くない。 コロナ禍で観光客もなく仕事がゼロになったとき、なんと庭の木の実を売って屋台のタコスで食いつないだ時期もあったという聡子さん。その名残から、今でも軒先に変わった実を見るとつい調べてしまうそう。 世界で活躍する女性は時に、ダンボールに絵を描いたり(前回参照)、木の実を売ったり、やはり逞しさや発想のユニークさが飛び抜けていて魅力的だ。 ところで世界を旅した私は今もユニークでいられているだろうか? 好奇心やサバイバル精神などの感性が鈍ってしまったのでは? 目は輝いているだろうか? 時々そんな不安にかられるけれど、ライフスタイルやキャラクターは無理して作るものではなく、自然体で好きなものを追求するのが一番良いと彼女たちに教わったような気がする。 そして偶然であろうか、なぜか彼女たちは「絵が上手」という共通点にいたった。私もそういえば絵は得意な方だったっけ......!? 次回、マリーシャは旅人を卒業して画家に......ではないけど、次回よりの前後編で10年続いた本コラムもついに最終回です!