社説:社会保障の改革 安心できる「給付と負担」示せ
医療や年金など、暮らしを支える社会保障制度をどう維持するのか。急進する少子高齢化を踏まえ、サービスの給付と負担を巡る議論を深めねばならない。 岸田文雄前政権は先月、6年ぶりに改定した「高齢社会対策大綱」で、後期高齢者(75歳以上)の医療費窓口負担が3割となる人の対象範囲拡大を検討することを打ち出した。 昨年末にまとめた社会保障改革の工程表に基づき、先細る現役世代の負担に依存した今の仕組みから、年齢にかかわらず能力に応じて負担する「全世代型社会保障」への転換を掲げる。 65歳以上の人口比率は3割弱から、15年後には約35%に上昇すると推計される。昨年度の医療費は47兆3千億円と過去最大を更新するなど、社会保障費は今後も自然増が避けられない。 一方、前政権が進めた防衛費の「倍増」や「異次元」の少子化対策では、財源の一部として社会保障費の歳出削減を織り込む。少子化財源には、医療保険料を引き上げて確保する「支援金」も創設する。 つじつま合わせで社会保障制度に手を突っ込み、継ぎはぎだらけにしている感が否めない。生活の安全網として、将来の青写真を示す政治の役割が何より問われている。 だが、衆院選での議論は低調だ。自民党は「全世代型」を強調し、負担増の話を避ける。立憲民主党は「ベーシックサービスの拡充」を示すが、中身や財源は具体性を欠く。日本維新の会は医療保険で高齢者の窓口負担を上げ、現役世代の保険料の軽減を図るとした。他野党では負担減の公約が目立つ。 一方、多くの野党が社会保障を支える消費税の減税や廃止をうたう。整合性はとれるのか。 医療では、医師の残業規制が強まる中、地方の医師不足が深刻化している。地方より都市部へ、病院勤務より開業へ、もうかる美容系の診療科へと医師が流れる「偏在問題」に切り込む方策も問われよう。 来年には年金制度改革が控える。7月に公表された財政検証では、約30年後に年金の給付水準は、2割の目減りが見込まれる。特に基礎年金(国民年金)しかない受給者には、厳しさが増す。底上げに向けては税投入や、パート労働者など厚生年金の対象拡大などが論点だ。 12月には、マイナンバーカードに健康保険証の機能を持たせた「マイナ保険証」に一本化するとして、現行の保険証の新規発行が廃止される。共同通信の公示前調査では「廃止に反対」が5割に上った。関係団体によると5月以降、マイナ保険証によるトラブルが約7割の医療機関であったという。 進める与党に対し、多くの野党は現行保険証との併用を求める。有権者の判断材料になる。