京都・三重 2つの鉄道が「地方の公共交通」変える!?(鉄道ライター・伊原薫)
近鉄の内部・八王子線のケースは
さて、もう1つの鉄道は三重県四日市市にある近畿日本鉄道(近鉄)の内部・八王子線。合計7キロというミニ路線ですが、「ミニ」なのは路線長だけではありません。 ここは日本でも珍しい「ナローゲージ」と呼ばれる路線で、線路の幅が762ミリメートルとJRの約70%、新幹線の半分ほどしかありません。車両の幅も狭く、座席に座って足を伸ばせば向かい側に届きそうです。 この特殊な構造が仇となり、同線は近代化が難航。現在も非冷房車両が走っており、また維持・修繕コストもかさむため、近鉄では沿線自治体と存続について協議を重ねてきました。 そして、上下分離方式の1つである「公有民営方式」を採用、4月からはインフラ部分を四日市市が保有し、運営は近鉄と四日市市が出資して設立した「四日市あすなろう鉄道」が行うこととなりました。 内部・八王子線の場合は、北近畿タンゴ鉄道の事例と比べて沿線自治体である四日市市がより深くかかわっている点が特徴です。もちろん、路線長や沿線人口が違うため、どちらが良いとは一概に言えませんが、両者に共通しているのは沿線自治体が「鉄道は地域に必要だ」という判断を下したという点です。
この2つの鉄道が運命のカギを握る!?
いま、地方では鉄道やバスなどの公共交通がどんどん衰退しています。道路網が発達し、自宅から目的地までクルマで移動できるようになったからです。 でも、もしケガや病気になったり、歳を取って車を運転できなくなる日が来たら、そしてその時、公共交通がなくなっていたら、そこに住み続けることは難しくなってしまいます。 京都丹後鉄道や四日市あすなろう鉄道は、人が住み、まちが残っていくために、そこに鉄道が必要だという沿線自治体の「決意」の表れなのです。 全国に数多くある、赤字の鉄道やバス。そしてまちが今後どうなるのか、この2つの鉄道が運命のカギを握っているのかもしれません。 (文/伊原薫/鉄道ライター) ■伊原薫(いはら・かおる)大阪府生まれ。京都大学大学院・都市交通政策技術者。(一社)交通環境整備ネットワーク会員。グッズ制作やイベント企画から物書き・監修などに取り組む。都市交通政策や鉄道と地域の活性化にも携わっている。好きなものは103系、キハ30、和田岬線、北千住駅の発車メロディ。