クルマだけど「走らないとき」の価値が高い! シャープの電気自動車が自動車メーカーとはひと味違う中身だった
家電のシャープが親会社とともにEVコンセプトを発表
若干旧聞に付す話題となるが、家電の「シャープ」が独自にEVを開発しているというニュースを覚えているだろうか。2024年9月に公開されたEVコンセプトモデル「LDK+」について、同社は「鴻海精密工業股份有限公司と連携し、EVのオープンプラットフォームをベースに企画・開発」した1台であると発表している。 【画像】シャープのEV「LDK+」のインテリアなどの画像を見る ご存じのように、フォックスコンの名称で知られている「鴻海精密工業」は、シャープの親会社である。また、数年前よりEVプラットフォームを開発・ビジネス化しようと動いていることでも知られている。そうした流れや状況から考えれば、シャープのEVコンセプトは、フォックスコンのEVプラットフォームビジネスを宣伝するためのサンプルと捉えるのが妥当だろう。 EVビジネスというのは進化のスピードが速く、方針についても朝令暮改的な部分があるため、結論づけるのは難しいのだが、現時点での印象をまとめれば、シャープがEV事業に本格参入するというよりは、フォックスコンのEVプラットフォームを利用すれば、自動車製造の経験が浅くても、商品力のあるEVを作ることができるというアピール要素が強いといえそうだ。
クルマというより「部屋」なLDK+が示す自動車の未来
非常に面白いのは、シャープ「LDK+」では、従来の新型車登場時にありがちな、クルマとしての性能アピールがほとんどない点だ。ワンボックスフォルムの車体は、大部分がリヤスペースというパッケージングで、後方に65インチの大画面モニターを配置するなど、ほとんど部屋としてデザインされている。 車名がLDK+となっているのは駐車場に置いたクルマを「リビングルームを拡張」したプライベート空間として利用できることを意味しているといえる。つまり、駐車中のバリューを狙ったコンセプトというわけだ。 ほかにも大規模言語モデルのAIによるサービス、蓄電池や太陽光発電と連携したエネルギーマネージメントなど、「止まっている時間」に役立つ機能にフォーカスしているのだ。 実際、公開されている透視図をみても、運転席は非常に狭く、ハンドルやペダルなどは省かれている。バッテリー搭載量、航続距離などの情報もなく、家電メーカーの知見を活かしたEVの新しい価値の提案を示しているのがコンセプトカー「LDK+」といえるだろう。 ただし、非現実的なコンセプトカーと捉えてしまうことはできない。 これまたよく知られていることだが、フォックスコンといえばApple iPhoneの製造を受託している企業として知られ、一時はアップルカーの製造も請け負うのでは? といわれていた。アップルカーについてはプロジェクトが凍結されたということもあり、不明な点も少なくないが、完全自動運転を最終目標としていたことは間違いない。 もし、フォックスコンのEVプラットフォームが完全自動運転を前提としているのであれば、「LDK+」の運転席まわりの表現が非常に簡素かつスペースが狭くなっていることも納得できる。現時点では運転席が必要かもしれないが、ドライバー不要の自動運転テクノロジーが実現、法整備や社会的受容性が満たされてこそ、移動する部屋というコンセプトが活きてくるはずだ。 運転行為が不要になったとき、旧来の自動車メーカーがどんな価値を提供できるかは不明であるが、少なくとも「ファン・トゥ・ドライブ」的な価値観は過去のものとなるだろう。そして、移動する部屋としての価値を高めるノウハウは、家電メーカーやインテリアに強い企業に一日の長があるのも事実。 シャープのコンセプトカー「LDK+」自体は、けっして現実味を帯びているものではないが、自動車産業の大変革を予感させる1台であることもまた事実だ。
山本晋也