陸空両用の「空飛ぶ車」 社会を変える「ASKA」の挑戦 実用化を見据えた日本での活用方法とは?
フルスケール実機「ASKA A5」の強みとは
「ASKA A5」はパイロット1人、乗客3人の4人乗り。プラグインハイブリッド方式を採用し最高時速約240キロメートル、航続距離約400キロメートルを誇る。 現在、世界で開発されているeVTOL(電動垂直離着陸機)は、飛行に特化したものが多い中、ASKAの最大の特徴は、走行可能な垂直離着陸機であり、本物の空飛ぶ車であることだ。 自動車の状態から翼を広げ飛行機にトランスフォーメーション(変形)するのにかかる時間はわずか1分ほど。その後、ヘリコプターのように垂直離陸し、飛行機としても利用できる。 現時点では、飛行中の操縦は免許を持ったパイロットであることが必須だが、着陸後は再び自動車として利用できる。 昨年にはフルスケールの実機を完成させ、6月には米連邦航空局(FAA)による証明書(COA)と特別耐空証明を取得し、現在は試験飛行を積み重ねている。22年6月以降、FAAから正式に「型式証明」取得へ向けたプロセスを開始している。また、実機は米自動車管理局(DMV)からナンバープレートも取得した。前回の取材時よりも、ASKAの空飛ぶ車は実用化に向けて着実に前進している。それはもう、遠い未来の話ではなく、近未来に実現する可能性が見えてきた状況にあると言っても過言ではないだろう。 「18年に開発を始めてから6年。これまでにデザインも3回変え、多くの失敗から学び、さまざまな改良を行ってきました。すでに公道では、自動車として500キロメートル以上テスト走行しています。現在は、安定した状態でホバリング(空中停止飛行)し、さまざまなシステムの稼働状況を確認しながら慎重に試験を行っています」 開発は順調のようだが、実用化に向けてクリアすべき課題はある。 「推力と車体重量のバランス、安定した垂直離着陸の実現、騒音低減のためプロペラの最適化など、改良すべき点はあり、やってみなければ分からないことが多いのも事実です。 ただ、『問題があるからやらない』ではなく、『全ての問題点を洗い出してチーム全員で共有し、改善していくこと』をモットーにしています」 技術とは生鮮食品に似ている。放っておけばたちまち〝陳腐化〟する。だからこそ、絶えず磨き続け、技術の〝鮮度〟を保ち続ける必要がある。 「人命は最優先すべきですから、人を乗せて飛行するのは最後の段階で行います。27年の商品化に向け、今はリスクを一つひとつなくすことに全力で取り組んでいます」 Advanced Air Mobility(AAM)と呼ばれる空の移動手段は、世界で市場規模が拡大していくことが予想される。米モルガン・スタンレーの予測では40年に1兆ドル、50年には9兆ドルに拡大すると見込まれるという。また、世界中で約1000社が走行機能のない電動垂直離着陸機を開発中とされ、近年は「陸空両用」タイプも勢いを増している。今年1月、米ラスベガスで行われた世界最高のテクノロジー見本市「CES」では、中国の電気自動車(EV)メーカー小鵬汽車(シャオペン)が陸空両用の空飛ぶ車のコンセプトモデルを展示し、話題を集めた。 「空飛ぶ車は将来、国の基幹産業になる。これは、絶対に負けられない戦いなのです」