『AKIRA』、谷口ジロー、『電影少女』など人気のフランス アメリカと違い「おたく文化」とはくくれない理由
世界で日本の漫画が読まれているが、フランスではどのように浸透したのか。漫画文化が受け入れられた理由、影響力を現場の人びとに聞いた。AERA 2024年4月8日号より。 【写真】鳥山さんが描いた「孫悟空」とサイン * * * アメリカに並ぶもうひとつの漫画大国、フランスの市場はどうか。アメリカにアメコミがあるように、フランスには「バンド・デシネ」と呼ばれるコミックの伝統がある。フランスで初めて漫画を出版したのはグレナというバンド・デシネの出版社。大友克洋の『AKIRA』のフランス語訳版を1989年に出版した。 講談社国際室(現ライツ・メディアビジネス本部国際ライツ事業部)で約20年間漫画の海外版権を担当した安藤由夏さんはこう言う。 「『AKIRA』担当編集者であった故由利耕一氏と、大友克洋さんに多大なアドバイスやご協力を得ながら進めて参りました。フランス版刊行が始まった数年後にはフランスでは、子ども向けでも一般成人向けでもない、それまでになかったヤングアダルト向けのコミックを新ジャンルである『AKIRA』と呼称していたくらい反響がありました。漫画に詳しくなくとも『AKIRA』は知っているというアーティストやクリエイターは多く、『MANGA』という枠を超えて一つの芸術作品として世界のアーティスト、クリエイターに影響を与えたのではないかと思います」 その後「ドラゴンボール」シリーズや「ONE PIECE」、「NARUTO」などがフランスでも出版された。
■アニメ見た世代に渇望 「その後、ドイツやイタリア、スペインを中心にヨーロッパで数多くの日本の漫画が翻訳され読まれるようになりました。最近では東ヨーロッパや中東、中南米にもその人気は広がっています」と、ビズメディア・ヨーロッパ代表の益田和之さんは言う。 「アメコミ文化はヒーローものが多く、アメリカではどちらかというと少年漫画が好まれる傾向があるようです。一方、バンド・デシネのジャンルは歴史ものも含めて広く、恋愛感情や人物の心情描写がより細かいので、フランスでは少女漫画や青年漫画も多く読まれているのではないかと思われます」 90年代から2000年代にかけてフランス語圏における集英社の漫画作品の出版エージェントを務め、現在は主に日仏間でアーティストやイラストレーターのエージェント業務を行っている貴田奈津子さんによると、フランスでは日本の漫画の読者層は幅広く、アメリカとは違い「おたく文化」とはくくれない裾野の広さがあると言う。 「もともと大人もバンド・デシネを読む習慣がある国だからかもしれません。例えば谷口ジロー氏の作品は人気ですし、『ガロ』の作家たちの作品も出版されています。80年代に日本のアニメがたくさんテレビ放映され、それを見た世代に渇望されてフランス語版の漫画が翻訳出版され始めましたが、例えばアニメ放映がなかった『電影少女』などの作品も大変人気があったので、もともと漫画文化を受け入れやすい土壌があったと思います」 (編集部・井上有紀子) ※AERA 2024年4月8日号より抜粋
井上有紀子