保守のプリンセス・高市早苗がいよいよ総裁選へ…でも、彼女に「決定的に欠けている」ものがあった
高市早苗は、安倍元首相の「正当な後継者」であるといわれる。 講演会や著書も大人気の保守派の大本命。しかしながら現職議員からの支持はいまいちのようだ。この政治家は「悪党」となって自民党をまとめることができるか。 【一覧表】小泉進次郎内閣、これが「驚きのメンバー」だ 永田町取材歴35年。多くの首相の番記者も務めた、産経新聞上席論説委員・乾正人による、「悪人」をキーワードにした政治評論。まさかの岸田首相退陣により揺れる自民党総裁選、有力候補者たちを独自の目線で切る。 ※本記事は、乾正人『政治家は悪党くらいがちょうどいい!』(ワニブックス刊)より一部を抜粋編集したものです。文章内の敬称は省略させていただきます。
安倍の死を最も悲しんだ政治家
日本初の女性宰相候補と言われ、月刊「Hanada」など保守言論界から絶大な支持を得ながら、あと一歩、二歩及ばないのが、高市早苗である。 三年前の自民党総裁選では、安倍晋三の全面バックアップを受け、大健闘したが、伸び悩んでいる。 以下は、二年前に彼女について書いた論評である。 親族以外に世界中で安倍の死を最も悲しんだ一人が彼女であるのは、間違いない。 暗殺されたのが、こともあろうに彼女の選挙区がある奈良県であり、銃撃直後に「(参院奈良選挙区は自民党優勢で)二回も応援が必要ないのに高市が無理を言って元首相にきてもらったからこんなことになった」というデマ、中傷まで流れた。 それでなくとも岸田らと総裁の座を争った自民党総裁選で善戦できたのは、安倍の存在あってのこと。元首相自ら受話器をとって票集めに奔走、あわや決選投票進出か、というところまで追い込んだ。総裁選後に自民党三役である政調会長を射止めたのも元首相の後ろ盾が最後の決め手となった。 高市は、平成二四(二〇一二)年の自民党総裁選で、清和会を離脱した。総裁選に立候補した当時の派閥会長、町村信孝ではなく、再起を図る安倍を全身全霊で応援するための「脱藩」だったが、派閥の仲間からはスタンドプレーとみられ、いまだに無派閥だ。 次回の総裁選にも立候補するには、二十人の推薦人を確実にするため新たに「高市グループ」を結成するか、清和会に出戻るしかないのだが、後者は、最大の理解者だった元首相なきいま、ほとんど不可能に近い。 ただでさえ、派内には萩生田光一、西村康稔、松野博一らとポスト岸田を狙う幹部が目白押しなのに、高市の座る席があろうはずはない。 新グループ結成も至難の業である。一時は総理の座をうかがう勢いだった石破派が空中分解したのも、ライバルの安倍から徹底的に人事でメンバーが干されたり、一本釣りされたこともさることながら、政治資金集めに難渋した点も見逃せない。 理念と政策だけでは、人は集まらない。カネとポストの切れ目が縁の切れ目なのは、昔も今も永田町の真理なのである。 ただ、彼女にはまだツキが残っている。 幸いだったのは、岸田が内閣改造党役員人事で、高市を無役にすることによって起こるであろうハレーション、つまり保守層の離反を恐れ、経済安全保障担当相というポストをあてがったことだ。 見栄えが良くて、官僚の部下も少ない「経済安全保障」担当に彼女を据えれば、虎を野に放つ愚は避けられる。岸田にとって実害のない渡りに船の好手だったのである。(『安倍なきニッポンの未来──令和大乱を救う13人』ビジネス社)