『春になったら』は死生観を問う作品に 奈緒と木梨憲武が紡いだかけがえのない時間
木梨憲武の“死”が30数年を経て伏線回収
24年ぶりの連続ドラマ主演を完走した木梨は、奈緒や濱田にエスコートされながら、随所で持ち味を発揮した。木梨の人間的な魅力、チャーミングでクスッと笑わせるセンスなくして本作は成立しなかった。最終話に至っては、もはや雅彦と木梨が一体化して見えたくらいだ。 雅彦と同じく今年62歳の木梨だが、椎名雅彦というキャラクターには木梨の人生が反映されている。お笑いコンビ「とんねるず」の第3のメンバーといえる仲間の死や、一途に思い続けた運命の恋は役作りに大いに寄与しただろう。自身の葬儀も経験している。1991年10月31日放送の『とんねるずのみなさんのおかげです』(フジテレビ系)で、盲腸で休養中の木梨は帰らぬ人になった、という視聴者へのドッキリが仕掛けられた。今となっては笑えないが、後年、自身が友人たちとお別れの会をするドラマに出演する壮大な伏線だったと考えると、30数年の時を経て回収されたことになる。 『春になったら』は意欲作だった。死生観が問われる現代で死は身近にあって、誰もが自分がいなくなる日のことを考えざるを得ない。だからこそ、生と死が交わる日常を描くことは、それがそのまま正解にならなくても、日々の生活に何らかの気づきを与える。『春になったら』を観て、周囲との関係を見直し、目の前の時間を大切にするようになったなら、そのことは本作の成功を意味しているのではないだろうか。 参考 『みなさんのおかげです 木梨憲武自伝』(小学館)
石河コウヘイ