個室ゼロで家族がもっと仲良く!? 築45年マンションのフルリノベで生まれた、新しい暮らしのカタチとは?
都心の古いマンションを全面改装した八木邸。4人家族が個室を1つももたずに暮らすスタイルで、次世代に向けての画期的な住空間が生まれました。 【写真集でチェック】築45年の住まいを家族全員で満喫する、個室なしリノベの秘密
都心でも有数の自然豊かなスポットとして知られる新宿御苑。 建築家の八木惣一郎さんの自邸は、この御苑に至近の築45年余のマンションの一室にあります。 八木さんが家族で暮らす家を設計したいと考え始めたのは6年以上も前からで、長年住み慣れた都心で暮らすことが希望でした。
マンションのメリット=平面的な伸びやかさを生かすプランに
「初めは狭小敷地で戸建てに挑戦という選択肢もあったのですが、やはり限界がある。ならば戸建てにはこだわらなくてもいいかな、と途中から思い始めたんです。 マンションは一戸建てに比べて、何より圧倒的に平面で広さを確保できるのが魅力。さらにリノベーションによって平面の広がりをつくり出すことができるからです。柔軟に考え方を切り替えていきました」と八木さんは振り返ります。 その後も納得のゆく物件を数年間探し続け、このマンションに出合いました。 約85㎡でL字型の空間は細かく各個室に区切られていましたが、立地のよさと角部屋で窓が多かったことも決め手だったといいます。
素材の異なる「ボリューム」が果たす役割
八木さんは今回、自宅のリノベーションにおいて「ボリュームをちりばめる」ということをメインテーマに掲げました。 具体的には石、木、金属(真鍮)、コンクリートの4つの素材のボリュームを空間内に配置。それによって生まれた隙間やコーナーに住まいに必要な機能をもたせました。
個室信仰に縛られず各人が自由に居場所を選ぶ
L字型の空間内は回遊式のワンルームで個室はありません。明確に各部屋としては区切らず、緩やかにスペースを分けることで多様な居場所が存在します。どこにいても全体を意識して、家族の気配を感じながら暮らせるプランです。 「考えてみたら現代の子供たちのプライバシーは個室よりもむしろ携帯電話のなかにあると気付いたんです。友人とのコミュニケーションはほとんどテキストなので、それならば個室は必要ないだろうと思って。成長後は個室がないことで家を出やすいでしょうし。物理的にも精神的にも独立しやすい環境にしているんです」と八木さんは語ります。
細部まで居住性を配慮しつつ、あくまでおおらかに存在す大空間
「個室を設けない」という一見、大胆に思えるこのプラン。 お子さんたちはまったく異論を唱えず、むしろ広々とした空間とその使い方を気に入っています。 「自分のつくった住居のなかで人が暮らしているのを、ライブで観察できるのが楽しいですね。やはり実際に自宅をつくってみて、本当によかったなと思いました」 シンプルに徹した空間構成でありながら、実は家族の現在と将来を見据え、極めて緻密な意図を秘めている八木さんの自邸。 現代の家族の関係性と、それに伴う住空間や暮らしの在り方を考えるうえで、エポックメイキング的な存在となりました。 (ML271号掲載)