SUVかBセグか マツダ「CXー3」が狙ったもの
リアシートが弱点ではあるが
室内長はフロントシート優先で見るならあまり大きな意味はないので、リアシートを積極的に使いたい人以外はあまり考える必要はない。リアシート優先で使いたいとなれば、そもそもBセグメントでは足りない。そこはCX-5を選択すべきだろう。CX-3の後席は空間の広さそのものは、頭上も含めて思ったよりある。しかしリアシートの出来は背もたれの倒れ具合に対して座面の後傾角が足りないし、ひざ裏のサポートもあまり考えられていないし、左右方向でもヘリの硬さが足りないためお尻が落ち着かない。全部が柔らかいダメなソファーの様だ。多分CX-3の一番顕著な欠点はここだと思う。しかし、繰り返すが、リアシートに大人をしっかり乗せようと言うのは本来、Bセグメントの用途外だと思う。 さて、数値で見る限り、意外にも広くないCX-3だが実際に乗って見ると、良い意味で極めて普通。フロントシートが背もたれを立てたアップライトな姿勢を前提に作られているせいで広さ感を感じるのかもしれない。しかし、その背中の立った着座姿勢でも頭上空間が狭いとは感じない。かと言ってSUVならではの大空間という感じもなく、普通のセダンに乗っている感覚に近い。それでも違和感がない程度には視点が高いから、若干の見下ろし感によって前方も見やすく、車両の感覚も掴みやすい。つまりあれこれが薄めのスペースユーティリティ感なのだ。そうなるとSUVと言っていいのかどうかだ。
ある種のユニバーサルデザイン
マツダはいちいち理屈をこねる会社なので「CX-3はSUVではなくクロスオーバーです」と力説する。まあ確かに言われてみると、その絶妙な高さ感は乗用車の自然さとSUVの視界の良さという長所が上手くクロスオーバーしている。なるほどクロスオーバーなのかもしれない。 と書くとマツダに「そうじゃない」と言われそうだ。「乗用車とSUVのクロスオーバーではなく、ユーザーのライフスタイルのクロスオーバーです」という説明だった。マツダは良いことを言うのだが、いつも分かりにくい。書き手の方がちゃんと翻訳しないとただの宣伝文句に見えてしまう。どうにかならないのだろうか? 「ライフスタイルのクロスオーバー」という言葉でマツダが言いたいのは「いかなる用途にも使える」ということだ。車高の話もその一つの現われだ。SUVっぽくするために着座位置をグーンと上げれば乗り降りがしにくくなる。かと言ってスポーツカーの様に低過ぎるのもダメだ。 マツダは一番自然に、つまり体に負担をかけずに座れるシートの高さを600ミリだと判断した。これだとよじ登ったり、膝を曲げてかがんだりする必要がないから、筋力に依存しない。例えばシニア層であっても自然に乗り降りできるわけだ。ラクに使えるのはシニア層だけではないから、これはある種のユニバーサルデザインだとも言える。 そして車高をむやみに上げなければ、前述の通り駐車場問題でも自由が広がる。日々使いやすいわけだ。従来のセダンより少しだけ高い見下ろしの視点に設定することで前方視認性が上がり、車両感覚も掴みやすい。何よりもボディサイズがコンパクトで、狭い路地でも気兼ねなく入っていかれるし、小回り性能も良いので取り回しの面でもネガが少ない。こういうクルマを使う現実のシーンのあらゆる面でユニバーサルな解を求めて行った結果がCX-3だとマツダは言いたいわけだ。だからマツダはCX-3をして「次世代のスタンダード」だと主張するのである。