私は中学受験で私立一貫校に入りました。恵まれた環境で学べたことにはとても感謝しています。学費を払ってくれた父にもお弁当を作り続けてくれた母にも大感謝です。やたら学校名に執着する人を相手にするときには、「下から有名私立」という経歴が役に立つこともあります。 ではもし中学で志望校に合格していなかったらどうなっていたでしょう。第2、第3志望校や地元の中学に進んだら、地獄のような人生だったのか？ もし、第1志望に落ちた自分はダメ人間だと思ったら、しんどかったでしょう。でも、縁のあった学校が自分に一番合っているんだと思えたら、愉快な友達もできただろうし「ここでよかった」と思ったんじゃないかと思います。周囲の言葉がけが肝心です。 私の育った環境では、そういう言葉がけがうまそうな大人が周囲にいなかったので、あの時合格してよかったとは思います。不合格だった時の家族や教師の反応は、なかなかヘビーだったろうから。でも、結局は志望校に入学後に問題児になったんですから、合格したら人生順風満帆というわけではありません。 きっと中学でどこに入ろうとも、喋ったり書いたりすることになんらかの形で関わる人生を歩んでいたんじゃないかとも思います。今と全く違うことでも、どこかに「言葉で表現する」という要素の含まれる道を目指していたでしょう。 その点では、国語の成績のいい娘に国語教育に力を入れている学校を勧めた母の判断には感謝しています。問題児化した私でも学校の勉強は楽しかったからです。

親の役割は子どもに「有名校の生徒」というブランドを与えることではなくて、その子が好きなことや得意なことを見つける手伝いをすること。それを伸ばす環境整備をしてあげることですよね。 その際に、親が「この道しかない」と思い詰めないことが肝心です。「人生はああもこうも生きていいし、実際にああもこうも生きられるんだよ」と、私も息子たちには折に触れて伝えてきました。そしてそのように社会を設計するべきだと考えています。 我が子に、人に会うなり「あなたはどこの学校出身ですか？」と聞くような大人になって欲しいとは思いませんよね。偏差値で人を値踏みしたり、学校名で線引きをするような視野の狭い人間にはなってほしくないでしょう。そんな価値観では、偏差値や学校名が通用する小さな世界でしか生きていけません。 VUCA時代（何につけても変化が大きく、不確実で複雑で曖昧な時代）に「中学受験で日本の有名校に合格しました！」なんて胸を張ったところで、何の保証にもならないし、誰にも興味を持ってもらえません。 でもハイレベルの中学に行かないといい大学に行けないし、海外の大学にも留学できない！と、心配になるのが親心。ここにも落とし穴があります。その「いい大学」や「海外の大学」は、正確にいうと「日本の有名大学」や「日本人がよく知っている海外の大学」ではないですか。 もっと正確にいうと「自分の周りの人たちが知っているすごい大学」じゃないでしょうか。でもこの世界には、有名ではないけれどその子の特性に合った大学や、日本では知られていないけれど素晴らしい学びの環境の整った海外の大学がうじゃうじゃあります。本当に、うじゃうじゃあるのです。