J1でも首位堅守、躍進続ける町田。『ラスボス』が講じた黒田ゼルビアの倒し方とは?
戦前の大方の予想に反して、第7節を終えた時点でFC町田ゼルビアが首位に立つJ1リーグ。町田はここまで5勝1敗1分とJ1初昇格チームとは思えない堂々の戦いぶりを見せている。黒田剛監督が就任した昨季も今季同様の戦い方で、一度も連敗を許さずJ2優勝を成し遂げた町田。ではその町田に勝った、あるいは負けなかったチームはどのような戦い方で黒田ゼルビアを攻略したのだろう? (文=鈴木康浩、写真=西村尚己/アフロスポーツ)
黒田剛監督が率いる町田が勝てなかったJ2の地方クラブ
昨季、J1昇格目前だったFC町田ゼルビアのサポーターが『ラスボス』と恐れていたチームがある。あのチームに勝たずしてJ1に昇格するのは心残りだ、というニュアンスだ。 あのチームとは、J2の地方クラブの一つ、栃木SCを指す。意外に思うかもしれないが、昨季、黒田剛監督が率いる町田は栃木に1分1敗、勝てないままJ1に昇格することになった。 ちなみに、町田は栃木に対して通算成績で1勝6分8敗。純粋な市民クラブ同士だった頃から町田は栃木に勝てなかった。そして、現在J1で旋風を巻き起こす黒田ゼルビアも栃木に勝てなかった。 運や相性の良さもあっただろう。昨季のJ2で2度対戦したときの試合内容を注視すれば、栃木は町田のエリキやミッチェル・デュークといった圧倒的な質には大いに苦しめられている。エリキにはゴールを決められ、デュークには高さと強さで散々起点を作られた。『ラスボス』といった表現に相応しい強さが栃木にあったわけではないが、しかし、町田に勝たせなかった。 それを成し遂げられたのは、栃木が講じた町田対策、そして栃木のチームスタイルが関係しているように思う。
町田を倒すために効果的な2つ戦い方
現在、J1でも首位をひた走る町田を倒すためには以下の2つの戦い方が効果的だ。 ・同じ土俵で戦う ・圧倒的な質で上回る 昨季、町田はJ2で7敗した。そのうち3敗は、町田とは資金力で大きな差がある地方クラブの栃木、ブラウブリッツ秋田、いわきFCに喫している。 この3チームの戦い方は共通していた。「同じ土俵」に乗って徹底して戦ったのだ。「同じ土俵」とは何か。町田の特徴であるロングボール攻勢、セカンドボール争いなど局面のバトルで負けない、その舞台に真っ向勝負で挑むことを意味する。 栃木も、秋田も、いわきも、日頃から町田と「同じ土俵」で戦えるだけの強度を大事にしてきたチームであり、そして「同じ土俵」で五分以上に渡り合った結果、勝ちをつかんだ。 町田の強みにつながる特徴を箇条書きすれば、 ・ロングボール攻勢 ・縦一本で背後を陥れる攻撃 ・強度の高いプレッシングからのショートカウンター ・デザインされたコーナーキック ・ロングスロー攻勢 ・相手のバックパスが大好物 といったことが挙げられる。 町田と「同じ土俵」に立ったとき、ロングボールやセカンドボールの局面バトルで後手を踏んでしまうと、そのまま押し込まれてロングスローやコーナーキックの攻勢に晒され、だいたいのチームはそこで押し切られる。 逆にいえば、局面バトルで後手を踏まなければ、町田の強みをある程度消すことができる。 この原稿をどう書こうか思案していたとき、J1で連勝中だった町田をサンフレッチェ広島がついに破った。試合を見たが、広島は「同じ土俵」で真っ向勝負し、町田の強みを消した。広島の得点シーンはバトルで上回った直後の速い攻撃からだった。広島も「同じ土俵」で戦えるだけの強度を日頃から大事にしているチームだが、その上で、ビルドアップの質でも町田のプレッシングを上回っていたのだから、さすがだ。 町田と同じ土俵で強度高く戦い、さらに、圧倒的な質でも上回ることができたからこそ、雨が降りしきる悪条件のなかで広島は今季無敗の町田に初黒星をつけたのだ。