日本最速の“無人運転”列車に乗ってみた 速い・静か・眺めイイ!! もともと開発は航空会社!?
リニア=磁気浮上式鉄道を航空会社が開発
鉄道を高速化するため、レールと車輪の組み合わせを別の何かに変えるというアイデアは、19世紀にはもう見られました。例えば「気球により車体を浮遊させ、空中に設置された軌道を走行する」とか、「水流で車両を浮遊させて動かす」などです。これらは実用化できませんでしたが、「超高速で車輪が蛇行する問題を、車体浮遊で解決できる」という考えは、第二次世界大戦後に各国で研究されるようになります。 【写真】無人運転! リニモの車内を見る ホバークラフトのような空気浮遊と、磁石による磁気浮遊が検討され、前者は普及しませんでしたが、後者は有力と見なされます。日本でも国鉄が1963(昭和38)年から研究を開始。1972(昭和47)年に試験車ML100による試験走行を行います。 一方、日本航空(JAL)が1974(昭和49)年、都心から60km以上離れている成田空港(当時は新東京国際空港)までのアクセスを自社技術で開拓するために、西ドイツで開発が進んでいた磁気浮上式鉄道と航空技術を組み合わせた「HSST」を開発。1985(昭和60)年のつくば万博を皮切りに、各地でデモ走行を開始しました。 筆者(安藤昌季:乗りものライター)はリニアモーターカーに乗りたい一心でつくばまで向かいましたが、騒音・振動が極めて少ない静かな乗り心地に「未来の乗りもの」を実感したものです。 HSSTは浮遊式なので、タイヤやブレーキシューの消耗がなく、また変速機も不要で、さらに車輪の抵抗や減速機でのエネルギー損失もないため、ランニングコストを抑えられるという特徴を有していました。その後、横浜博覧会のアクセス鉄道として期間限定で営業運転を行い、実用化への問題点は解消されたとして、千歳空港アクセス鉄道などへの導入が検討されますが、JRとの競合などで建設には至りませんでした。
「リニモ」こと愛知高速交通へ導入
HSSTは1999(平成11)年になって「あいち学術研究ゾーン」への導入が決まり、2005(平成17)年の「愛・地球博」(愛知万博)開催に合わせて、愛知高速交通東部丘陵線(愛称:リニモ)として開業しました。これはどんな乗りものでしょうか。 リニモの起点の藤が丘駅(名古屋市名東区)は、名古屋市営地下鉄東山線と接続しています。地下鉄の藤が丘駅は高架にありますが、リニモの駅は地下にあるのが不思議です。プラットホームはホームドアで覆われ、線路ではないリニア軌道が見えることに近未来感を覚えました。 ほどなく、100形車両が到着しました。2005年度のグッドデザイン賞と、2006(平成18)年度のローレル賞を受賞しており、オシャレで窓の大きな車両です。リニモは走行音が非常に小さく防音の必要性が低いことから、ガラスの面積を増やせるのです。 リニモは無人自動運転を採用しており、基本的に乗務員はいません。沿線に「ジブリパーク」などの観光施設があるためか、外国人のグループも乗車しており、先頭車両から興味津々で周囲を見回していました。 午前10時27分。藤が丘駅を大変静かに発車。リニアの軌道の横には点検用の作業通路が平行しており、SFに登場する宇宙船のカタパルトが連想されました。前面展望はロボットアニメの発進シーンのようです。 100形の起動加速度は4.0km/h/s(1秒間に4km/hの加速)ですが、これは鉄道で日本一の加速度を誇る阪神電鉄「ジェットカー」と同じで、みるみる速度が上がります。最高速度は100km/hと、無人運転列車としては最速。開業時期が近い日暮里・舎人ライナーは最高速度60kmで、9.7km(13駅)を20分で走るのに対して、リニモは8.9km(9駅)を17分で走ります。停車時間を含めた平均速度である表定速度を比較すると、前者は29.1km/h、後者は31.4km/hです。