「あんなにぴんぴんしてたのに...」 ノムさんが語る、妻・沙知代さんとの「最後の晩餐」
「このがらんどうの人生を、俺はいつまで生きるんだろう。俺はおまえのおかげで、悪くない人生だったよ...おまえは幸せだったか....?」 生きている間に伝えたかった「ありがとう」をこの本で。名将・故野村克也さんが綴った、亡き妻・沙知代さんへの「愛惜の手記」。 2人のかけがいのない思い出から「夫婦円満」の秘訣を紐解いていこう。 【漫画】「しすぎたらバカになるぞ…」母の再婚相手から性的虐待を受けた女性が絶句し *本記事は、野村克也『ありがとうを言えなくて』(講談社)を抜粋、編集したものです。 『ありがとうを言えなくて』連載第3回 『「俺より先に逝くなよ」 天才的な采配をふるった名将・野村克也が唯一予測を失敗した「あること」とは? 』より続く
沙知代が死ぬなど「想像」もしなかった
あの沙知代がまさか死んでしまうとは。 あらゆるものに抗って生きてきた女が、最後の最後、もっとも抵抗すべき死をこんなにもあっさりと受け入れてしまうとは。 これまで沙知代が死ぬことなど想像したこともなかった。病気もほとんどしたことがないし、持病もなかった。晩年、少し耳が遠くなってきていたようだったが、85歳だからな。 死ぬ直前まで、あんなにぴんぴんしていたというのに。 前日の夜は、通い慣れた東京都内の老舗ホテルで食事をした。
並んで「同じ方向」を向いて食べた
ヤクルト時代、日本シリーズ進出が決まると、開幕数日前からチームでそのホテルに滞在した。膨大なデータを収集および分析し、毎晩、ミーティングを行った。そして、そこから決戦の舞台へ向かうのだ。 私にとっては「城」のような存在のホテルでもある。 私と沙知代がホテルに到着すると、いつものように、まずはラウンジの四人席のソファの方に横並びに座った。そこで私はアイスカフェオレを、妻はホットコーヒーを頼む。これもいつものことだ。 そうしながら、さて、今日は何を食べようかとしばらく思案するのだ。老舗ホテルであれば、たいていのものはある。何を食べるか決めかねているときは、じゃあ、とりあえずホテルに行くか、となるのだ。 私たちは食事をするときも向かい合って座ることはなかった。奥の席に二人並んで座り、同じ方向を向いて食べる。 確か、あの晩は、シンガポールの肉料理「バクテー」を食べたんじゃないかな。あいつは、肉ばっかり食べていたから。 俺は何を食べたんだったかな……もう、忘れた。 『「今晩、何食べる?」「何でもいいわよ」 野村克也さんの妻・沙知代さんが編み出した、驚きの「夫掌握術」』へ続く
野村 克也(野球解説者)