「もう神頼みはやめよう」と決めた私が、目標達成のために唯一頼みにしている存在【坂口涼太郎エッセイ】
お力を分けていただく存在
そんな神頼みを卒業した私が目標を達成するために唯一お力を分けていただく、かつ、ただただ愛しいお姿で眼福な存在として愛好しているのは、だるまさんです。 5年前に横浜の弘明寺でおみくじや絵馬などと共に、ちんと目を白くして佇んでおられるその愛おしき赤くて丸いお姿に私は一目惚れし、両手でひよこを持つように持ち帰ったのがはじまりで、だるまさんとその時の自分なりの目標を決めて片方の目に黒目を開眼させていただき、もう片方の目が開眼するその日まで、じっとこちらを見据えていただく。その表情はときにあたたかく、ときに厳しく、まるでコーチのようでもあり、相棒のように日々を並走してくれる存在で、願いを叶えてくれるというよりは、目標を考えるきっかけであり、そして、その目標を達成することを一緒に約束して監視してくれるような存在です。 そんなだるまさんの叱咤激励のおかげで、お涼はついに、ちゃ舞台を飛び出して、海外ドラマに参加することができました。 いまAppleTV+で配信されているA24製作のドラマシリーズ「Sunny」に、アダルトショップの店員で違法プログラムのディーラーでもあるタクミ役を務めております。 A24といえば北欧の奇祭を舞台にして大ヒットした「ミッドサマー」をはじめ、映画館で興奮して思わず声を上げた「エブエブ」。こじらせ思春期のうずうずをほじくり返されてしょうがない「レディ・バード」、おばあちゃん好きにはたまらない「フェアウェル」、これがちゃんと沁みるということは私もちゃんと大人になっているのだなと実感できた「パスト ライブス/再会」、「ロスト・イン・トランスレーション」ぶりにソフィア・コッポラとコラボしたビル・マーレイのおじさんが堪能できる「オン・ザ・ロック」など、A24製作ならとりあえず見とかな! と思わせてくれる映画会社ですが、だるまさんと一緒に「海外作品に参加する」という目標を立てたのは自分なはずなのに、まさか大好きなA24作品に携われるとは思ってもみないから、人生は予想外のミルフィーユだと、しみチョココーンぐらい骨身に染み入っている私でも呼吸が続く限り「えーーーーーーーーーーーー」と驚きました。 驚いたけれど、それは神頼みで叶ったことではなくて、だるまさんが怠惰な私を日々じいっと見つめてくれて、その目標のことを潜在的に意識させてくれて、気がつかないうちに言葉にして誰かに伝えていたり、行動に移したりしたことがなんとなくこの世界に作用して、マネージメント部もそれを意識して動いてくれて、今まで受けたオーディションで私を知ってくださっていた方が今回のオーディションに呼んでくださり、偶然私が役のイメージに合っていて、選んでくださって、無事に撮影の日を迎えることができて、2年経ってようやく世界に公開されて、それを見届けることができたから、だるまさんのもう片方の目を開眼させることができました。 人生にはどんなこともありうるのだよな。予想外なことも、予想通りのことも、いいことも、悪いことも、どんなことだって自分に起こりうるのだと思うと、日々お地蔵さまに祈るときの「ありがとう」がものすごいことだと思えて、骨身にしみしみ沁みてくる。 いま私の目の前には3名の両目がぱっちり開眼しているだるまさんと、まだ片目がまっしろのだるまさんがおひとり、こちらをじっと見つめている。 あと何度自分に「ありがとう」と祈ったら、そのだるまさんのもう片方のおめめも黒くなるのか。 それまで私は祈り続けたいと思います。 文・スタイリング/坂口涼太郎 撮影/田上浩一 ヘア&メイク/齊藤琴絵 協力/ヒオカ 構成/坂口彩
坂口 涼太郎