デルタ電子の「超現実的」なAI戦略、非IT分野も「AI×○○」でこう変わる
「AI×3Dモデリング技術」で危険でコストもかかる“あの作業”が効率化
デルタが推進するもう1つのアプリケーションが、橋梁などの大型施設の点検の効率化だ。 従来、橋などの点検作業は人が行うことが多いが、危険な作業であり時間と費用もかかる。ドローンなどを用いて効率化しようとしても、そこには問題がある。橋の下部など、GPS信号が届かない場所でいかに正確にドローンを飛ばし、操作するかという点だ。 デルタでは独自のAIアルゴリズムを使い、まずターゲットとなる橋の3Dモデルを作成する。そして、橋全体を広く撮影した2D画像から3Dモデルを復元する技術「SfM(Structure from Motion)」により、ラフな3Dイメージを作成する。次に橋のセグメントをスキャンし、同じSfMアルゴリズムにより、詳細なメッシュベースの3Dジオメトリーモデルを作成する。 この3Dモデルを基本に、ドローンのフライトプランを作成するのだが、プランはジョイント部分など注意が必要な場所では低速飛行を行い、その他では高速飛行を行うことで時間の短縮が可能となる。 さらに橋の下などではビジョンベースのナビゲーションによりGPSフリーの飛行が可能となる。位置情報の誤差は1メートル以下だという。 最後にドローンが撮影した動画をAIが分析し、問題となる箇所の割り出し、修繕プランを作成する。この一連の作業により、橋梁などの巨大建造物のメンテナンスコストを劇的に下げることが可能となる。
「AI×EV」で「自動運転」はこう進化を遂げる
デルタはEV用のパワートレインの製造販売も行っているのだが、やはりAIとEVという組み合わせになると、焦点となるのが「自動運転」の存在だ。 しかし、チウエ氏は「完全自動運転の実現にはまだ15年はかかるだろう」と指摘する。 米国の例を見ても、米GMクルーズがサンフランシスコで自動運転タクシーの実証実験中に事故を起こしたことでロボットタクシー計画が頓挫、グーグル傘下の米ウェイモも2件の事故の後で自社初となる自動運転車両のリコールを行った。 ウェイモはアリゾナ州フェニックスでロボタクシーの認可を得ているが、完全自動運転で走行できる場所は高速道路に限られている。 一方で、ADAS(高度運転支援技術)は今後も隆盛で、特に「レベル2」以上の技術導入は今後も進むと予測される。 そのため、デルタではシミュレーションを使ったADAS用のストレステストを提供している。シミュレーターには「テストケース生成機」「仮想環境シミュレーター」「車両動的シミュレーター」などが用意されており、それぞれの目的に合わせたテストが実行される。 このテスト結果を、AIを用いて評価し、フィードバックを行うことにより、問題点の割り出しが可能となる。さらにテストを繰り返すサーキットにより、サービスの向上を目指すことができる。 自動運転の実現はまだ先のことであるとしても、ADASの品質向上への需要は高く、シミュレーターによる実験のループを行うことでADASの正確性を高めるのが目的だ。
【図でまとめ】AI時代のデルタ電子の戦略ポイント
結論として、AIによる革命はまだ始まったばかりである。デルタはその中で非IT部門のAIコンピューティングインフラストラクチャー、すなわち電力供給、熱管理、エネルギー貯蔵などの分野で必須の役割を担う企業となる。 その上で、QWiFi(Wi-Fiレーダー)、BIDS(ドローンベースの橋梁検査ソリューション)、COTA(ADASのテストと強化システム)などのAIを用いたソリューションシステムで業界をリードする存在となる。 AIの実業分野への導入アプリケーションの例として、非常に参考になる取り組みの数々が紹介された基調演説となった。
執筆:米国在住ジャーナリスト 土方 細秩子