桜田ひより、子役から令和のヒロインに 『ブルーピリオド』『あの子の子ども』で増す勢い
美しくも厳しい美術の世界で情熱を燃やす若者を描き、累計発行部数700万部を突破した山口つばさによる人気漫画を実写映画化した『ブルーピリオド』が8月9日に公開された。 【写真】桜田ひより主演ドラマ『あの子の子ども』の場面カット 眞栄田郷敦演じる高校生の矢口八虎は生きている実感を持てずにいたが、突如美術の魅力に目覚め、超難関の東京藝術大学合格を目指す。そんな主人公に影響を与える重要な役どころを担うのは、現在放送中のドラマ『あの子の子ども』(カンテレ・フジテレビ系)でも話題の桜田ひよりだ。21歳ながら芸歴はすでに15年を超える桜田の勢いが増している。 初めて彼女を見た時の衝撃は忘れられない。当時11歳だった桜田が出演したのは、児童養護施設に暮らす子どもたちの姿を描いた『明日、ママがいない』(日本テレビ系)だ。主演の芦田愛菜を筆頭に実力のある子役たちが集った同作で、桜田は“ピア美”こと直美を演じた。元お嬢様だけあって高飛車なところもあるが、根は純粋。ピアノの発表会に現れた父親に感情を吐露する場面で泣かされた人も多いのではないだろうか。ピア美の大人びたところと、年相応な子どもらしさを巧みに演じ分ける桜田には驚きを禁じ得なかった。 翌年にも『ワイルド・ヒーローズ』(日本テレビ系)で物語のキーとなる記憶喪失の少女・五嶋日花里役で大人顔負けの演技を披露し、名子役としての地位を確固たるものにした桜田。だが、わずか2年後には麻雀に青春を注ぐ女子高生たちを描いた『咲-Saki-阿知賀編 episode of side-A』(MBS/TBS)では子役を脱し、主演として圧倒的な存在感で作品を牽引した。
“適応力”を活かした『silent』『バジーノイズ』での桜田ひよりの好演
そんな桜田が再び大きな注目を集めたのが、2022年に大ヒットしたドラマ『silent』(フジテレビ系)だ。目黒蓮演じる中途失聴者の想と、川口春奈演じる高校時代の恋人・紬の再会から始まるラブストーリーで、桜田は想の妹・萌を演じた。想と萌は仲の良い兄妹ではあるが、ベタベタした関係ではない。それでも誰より萌は想のことを気にかけており、家族の中でも一番早く手話を覚え、寄り添おうとした。そんな萌の、想を心配するあまり過干渉気味になっている母親に対する複雑な感情や、紬を素直に受け入れがたい気持ちを繊細に表現した桜田はこのドラマにおけるベスト助演と言えるだろう。 同作で演出を担当した風間太樹監督とは翌年、映画『バジーノイズ』で再タッグを組み、「自分の演技スタイルが確立された感じがあります」(※1)と語るほどの手応えを得た。事実、突拍子も無い行動に出るヒロイン・潮を演じた桜田の光と影が交錯するような芝居に目を奪われっぱなしだった。2023年には映画『交換ウソ日記』でも空気を読みすぎてしまう不器用なヒロインを瑞々しく演じ、その年の日本アカデミー賞で新人賞に選ばれた桜田。“新人”という言葉に良い意味で違和感を覚えるほどに、数多くのドラマや映画に出演してきた彼女の魅力は豊富な現場経験で培ってきた適応力だろう。『バジーノイズ』と『交換ウソ日記』も同じラブストーリーとはいえ、かなりテイストが異なるが、桜田はどんな色にも染まることができる。 同じ作品の中でもシーンによって色を変え、『あの子の子ども』でもその力は顕著に現れている。このドラマは“高校生の妊娠”がテーマ。妊娠をきっかけに人生が一変する主人公の福を桜田が演じている。福は普通の高校生で、恋人の宝(細田佳央太)を前にした彼女の眼差しには親愛が溢れていて微笑ましい。だが、思ってもみない現実に直面した福の戸惑いが桜田の緩急ある芝居によって自分事のように胸に迫ってくる。10代の妊娠を描いたドラマは珍しくないが、多くの人が福と宝の行く末を固唾をのんで見守っているのは主演を務める2人の演技に依るところが大きいだろう。 同作をはじめ、桜田は実写化作品への出演が多く、『彼女、お借りします』(ABCテレビ・テレビ朝日系)や『神様のえこひいき』(Hulu)でも原作ファンから好評価を得た。 そんな桜田が『ブルーピリオド』で演じる森まるは、美術部に所属する3年生。主人公の八虎よりも1学年上で、彼女が描いた天使の絵は彼が美術の世界に身を投じるきっかけとなる。 その後も八虎に影響を与え続ける森まる。祈りをテーマにした作品と同様に、彼女自身がどこかこの世のものとは思えない幻想的な雰囲気を纏っている。桜田の穏やかながら意志の強さを感じさせる佇まい、柔らかい声の出し方がキャラクターに説得力を与えていた。10年前に名子役として話題を集めた桜田ひよりは今、令和を代表するヒロインとして欠かせない存在となっている。
苫とり子