父の遺産で優雅に暮らす90歳母…転倒して入院、車いす生活に→還暦過ぎの4人の子ども「引き取りはムリ」「相続が不安」の切実理由
自宅マンションを売却し、賃貸マンションを2室購入すれば…
母親が自宅マンションを売却する場合、利益の3,000万円までは控除される「マイホームを売ったときの特例」があります。自宅マンションは購入価格よりも1.3倍程度に値上がりしているため、特例が活かせないと譲渡税がかかってしまいます。 相続を見越した場合、自宅マンションを売却して、現在賃貸物件としているマンションと同じ程度の区分マンションを2つ購入すれば、4人いる相続人がそれぞれマンションを相続でき、評価の差も預金で調整してバランスを取ることができそうです。加えて、母親が遺言書で相続の内容を指定しておけば、手続きも簡単になり、きょうだい間で揉める心配もありません。
民事信託は必要か?
上記の説明をすると、鈴木さんは深くうなずいていましたが、加えて質問があるといいます。 「あわせて、民事信託の契約もしておいたほうがいいでしょうか?」 民事信託契約は、主に親の財産を子どもが預かるときに利用されており、近年では高齢の親の認知症対策の有力な選択肢となっています。これを利用する場合、契約の費用のほか、不動産を信託財産とする際に名義変更が必要となることから、150万円~200万円程の費用が発生すると想定されます。 「今回の鈴木さんのお母さまの場合、財産の内容を見る限り、しっかりされているうちに自宅を売却し、資産組替しておけば、あとは賃貸事業をサポートするだけで、大きな対策をとることなく乗り切れると思いますよ。遺言書の作成も必要ではありますが、ここで150万円~200万円の費用をかけた対策をしなくても、大丈夫だと思います」 打ち合わせに同席した提携先の司法書士から、このようなアドバイスを聞くと、鈴木さんは、ほっとしたようでした。 「老人ホームなどの入居先が決まったタイミングで、お母さまの体調を見ながら、速やかに対策を進めましょう」とお伝えすると、鈴木さんは「この件を、これからすぐ母親ときょうだいに共有して、手続きを進めるようにします」といって、事務所をあとにされました。 日本人の寿命が延びたことで、相続対策も長期戦で取り組むケースが増えてきました。ときには途中で方針変更したり、マーケットの状況を見ながらのフレキシブルな対応も必要になります。 社会情勢も、家族のスタイルも、ひとりひとりの健康状態も、刻々と変化しています。効果の高い相続対策を実現するには、「一度対策をしたらおしまい」ではなく、こまめに見直し、軌道修正する根気強さもまた、必要になるといえます。 ※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。 曽根 惠子 株式会社夢相続代表取締役 公認不動産コンサルティングマスター 相続対策専門士 ◆相続対策専門士とは?◆ 公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。 「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
曽根 惠子